日本の鉄道の技術の進展と新型コロナ後への課題

秋田 雄志

技術経営士の会

 

日本の鉄道の発達と技術

鉄道は、英国での発祥に40年遅れて明治初期の日本へ技術導入された。新橋から横浜間が1872年に開業し、以降富国強兵を目指す明治政府の産業インフラの柱として全国へ路線網が広がった。鉄道設備の基本仕様である線路幅は、急勾配かつ急曲線が多い日本の地形と鉄道建設費を考慮して狭軌方式が採用され、狭軌で列車の高速化や乗り心地向上、輸送力増強を実現した。日本の鉄道技術の原点となるも、他にも独自技術適用の結果、欧米の鉄道と異なる独自の技術標準が一部に採用される結果となった。(一部大手民鉄や新幹線は標準軌道)

 

日本の鉄道の発達および技術進展の事例を年代順に示す:

①お雇い外国人、特に英国人の指導および車両、鉄道設備・機器の輸入(明治初期)
②車両、機器、少し遅れて機関車やレール等の国産化始まる(明治末以降、1900年~)
③鉄道の国有化と標準化の推進(1906年~)
④蒸気機関車牽引特急「つばめ」が東京~神戸を最高95km/h、9時間運転(1930年)
⑤商用周波数交流電化の実用化(1957年)以降新幹線等高速鉄道・都市間幹線へ導入
⑥東海道新幹線開業(1964年)自動車に押されていた世界の鉄道の復権に貢献
⑦新幹線、都市間特急、一部通勤列車の高速化(JR発足以降、1987年~)

(公財)鉄道総合技術研究所(RTRI)における研究開発・技術開発

RTRI(所員550名,うち博士210名、技術士110名)は国鉄民営化に伴い研究開発事業を承継する独立組織として鉄道技研を核に創立。

(1)研究開発の目標 ①安全性の向上、②低コスト化、③環境との調和、④利便性向上

(2)研究開発の3本柱
①目的基礎研究:鉄道の固有現象の解明
・車輪・レール接触の動的挙動:車両走行安全性、脱線現象、摩擦・亀裂・疲労性能
・強風時の車両走行安定性・転覆限界
・走行車両の騒音発生・伝搬メカニズム等々 
②3年先程度の実用化を目指す技術開発:JR等と連携して課題設定・実現を目指す
③10年あるいはより先の実現を目指すプロジェクト研究開発
・激甚化する自然災害に対する鉄道の強靭化(実用できる技術成果は逐次活用)
・列車運行の自律化・自動運転制御(鉄道はクルマと異なる安全性要件あり)
・デジタルメンテナンスによる故障予知・診断・補修(労働生産性向上・低コスト化)
・電力ネットワークの電力協調制御による低炭素化(地球環境保全) 等々

☆研究開発成果を確保できたプロジェウトは実用化を目指しJR等が主体で推進
・非接触ICカードはJR東日本が主体で自動改札、SUICA、電子マネーへ展開
・無線式列車制御システムはJR東日本で仙石線や埼京線で実用化(ATACS)
・地震早期検知・警報システムは気象庁と連携して鉄道以外の一般社会へも展開
・JR東海と共同開発した超電導磁気浮上式鉄道はJR東海へ移行して建設開始

 

筆者自身が参画した国鉄時代のプロジェクト事例

(1)新幹線列車運転管理システムCOMTRAC

・1960年代の国鉄はOn-line Real-time Systemで産業界を主導。その代表的事例。列車Trafficを計算機が自動制御。ダイヤ乱れ発生時にセンタの指令員とMan-Machine対話形式で列車運転計画を回復させるシステム。国鉄と日立製作所が協同開発プロジェクトを設立。若手技術者の1人として筆者も参画。開発期間が短く、現在のパソコンに比べ計算機性能が格段に低く制約も多かった。若手技術者が大規模プロジェクトで心身ともに苦労した経験は、貴重でプロジェクトマネジメントを学ぶ機会に。COMTRACは世代更新を重ね、現在の新幹線の安定輸送の“要”になっている。

(2)列車制御の安全を支える信号保安装置:電子連動装置SMILE

・列車衝突や列車脱線を防止する信号保安装置は大型の電磁リレー回路構成であった。計算機制御にすれば設計・製作の標準化と列車制御の機能向上が可能。ただし、汎用電子部品の故障時に確実に赤信号へ制御する等フェールセーフ手法の開発が必須。1975~1985年代に日欧米の鉄道先進国は実現に向けて先陣争い。研究開発は活気に満つ。筆者が開発リーダを務めたSMILE開発プロジェクトは国鉄とメーカの若手技術者が自由にアイデアを出し合う等、人材育成にも寄与。計算機の多重系構成とフェールセーフ照合回路を組み合わせて、安全性を保証するコア技術は信号保安装置のみならず、安全性が要求される各種の列車制御の基本技術として広く利用されている。

 

人材育成

鐡道の研究開発の頭脳;RTRIにおける人材育成を例示する。

(1)人事交流 鐡道の研究開発は鉄道現場の運営実態を知ることが必要
・採用後3年程度の若手を主にJR、一部は民鉄や鉄道関連メーカへ2、3年出向
・逆にJR等から出向者を研究室へ受け入れ、部外との人的交流を推進
(2)海外への短期出張の推奨
・鉄道関連に限らず海外の学協会へ論文投稿・発表を推奨(100~200人/年)
(3)内外の大学・研究機関と交流の推進
・東工大、早大、バーミング大等と連携大学院、内外の大学・研究機関と共同研究
・国内大学へ数十人の客員教授・非常勤講師を派遣
(4)部内に鉄道国際規格センタを設立し、ISOやIEC等の国際標準会議にわが国を代表して対応。欧米主導の国際技術標準の壁を乗り越える海外展開経験を有する人材の育成が急務。鉄道コンサル会社、第三者認証機関とともに鉄道技術の海外展開を支援。
(5)研究者が一定の年代に達した時点で研究専門者と俯瞰的視野を目指す研究者へと幹部所員が振り分け評価し、その後の人材育成の一助に

 

新型コロナ後への鉄道の経営および技術的な課題

新型コロナの世界的蔓延はNew Normal(新常態)時代を出現し、社会や生活の様相を一変させる契機になるといわれる。実空間とサイバ空間が高速情報網を介して表裏一体化したCPS (Cyber Physical System)の世界、すなわちSociety5.0が提示する社会が実現し,その推進役はAIやセンサ技術を活用するDT(Digital Transformation)といわれる。

日本の社会はコロナ以前から超高齢化、生産労働人口の減少が顕著だが、さらにコロナ禍はテレワーク、On-line授業等による職住近接等を推進。鉄道は利用客減少、労働力補充の困難化等に直面し、他方マスプロダクションの名残りである通勤混雑が緩和される。

(1)新型コロナ後へ向けて鉄道の課題
今後の鉄道の在り方として次の点を挙げる。

①人や物の日常的な輸送を安全かつ効率よく実現
②快適で魅力ある旅を創出し、非日常的な出会いや経験の場を提供
③人や物の交流を通して社会的、経済的、文化的な価値の創生を支援

①は、2つの拠点間を高速・大量・ 安全・安定に輸送する鉄道本来の機能。わが国の人の減少、海外情勢に依存するインバウンドの不安定化、テレワークによる輸送の減少等が予想され、運営・保守コスト削減とともに輸送性能をさらに高める必要がある。顔認識等を利用した改札ラッチレス化はサービス向上の一方策。日本の生産労働人口は減少の一途を辿り、保守業務の効率化も重要。検討が進む統合型列車制御システム(UTCS:Unified Train Control System)は、クラウド処理、無線利用、沿線機器の最少化を図るCPS型システムである。低廉なセンサ、AIやビッグデータ利用の設備故障の診断・予知や、補修業務へロボット活用の高度化は今後の課題。自動列車運転は運営コスト低減、省エネ運転、労働力不足等に効果。都市の高架、地下鉄道へドライバレス方式(ISO規格のレベル4;運転士省略)、踏切のある鉄道へ異常時には運転席着座監視員が介入する方式の自動運転(同規格のレベル3)の二方式を中心に技術と制度に関する要件整理が進行中。課題は社会的受容を得ることや自動運転設備の低コスト化。

②は、観光や自然を訪ねる旅を提供する。MaaSはその有力な方策で、旅の計画・予約・決済・タイムリな旅行情報提供ともに、他の鉄道、バス、タクシ、サイクリ ング車等の輸送機関相互の密な連携、受け入れ施設やカウンタパー トと随時・的確な情報交信等、旅行者視点に立つサービスを実現。すでに実績ある観光列車や豪華クルーズ列車は夢ある楽しい旅を演出。訪問先には大自然の美や神秘、歴史遺産、地域の伝統や風習、豪華な宿や料理等、多様なツアーメニューを揃える。

③は、COVID-19 後の社会はライフスタイルのパラダイムシフトを起こすといわれる。情報ネットワークが世界中をカバーし、任意の国や場所と即時交信を可能にしたが、情報交信だけでは十分なコミュニケーションができないことは周知の事実。議論し、アイデアを出し合う際は対面形式が有効。どこかの地区や施設を訪問して特有の自然景観、文化財、歴史遺産 等に触れるだけでなく、長短を問わず一定期間滞在して、その地区の自然・生活・生産活動・風習等を実感することはこれからの社会の重要な方向。人々の腰を据えた交流も地方創生の有力な手法。海外からも同調する人々が増えると予想。受け入れ体制と支援方法、制度等の整備が課題。このような企画と実行にあたり鉄道は構成団体の一つとして貢献できる。

 

おわりに…

最近注目されているDXはデジタル技術を強力な方策として、これまでにない社会的価値を有するシステムを創出するものと解釈する。DX活用は、既存システムのコスト削減や性能向上等の急務な課題解決に有効であるが、やはり新たな価値創造が主と考える。

それには経営トップが将来の鉄道のあるべき姿、すなわち目標を描くとともに、最新技術、斬新な感覚等が必須なことから、有能な若手社員・研究員を中心にして、戦略や実行計画を議論・検討して行くことが必要と考える。鉄道外の人材も共同参加のオープンイノベーションは、すでに鉄道会社等で進行している。

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