産学連携プロジェクトの更なる推進に向けて

都築 浩一

技術経営士の会

産学連携は、企業の研究開発にとって不可欠の有効な活動手段である。
私自身も日立製作所在職中に複数の産学連携プロジェクトに関わりその恩恵に浴した。例えば、2000年代初めの垂直磁気方式磁気ディスク装置の実用化研究開発は、東北大学と連携講座などを含む産学連携を長年続けることで大学発の新しい技術を仕込むと同時に大学から優秀な人材が供給され続けた事が開発成功の要因の一つであった。

また、欧州駐在時にはアーヘン工科大学やシュトゥットガルト大学などのドイツの大学と、燃焼関連の基盤技術に関する共同研究を行った。大学に蓄積された高度な実験技術と解析技術を活用して、企業側で新システムを設計するのに必要なデータ収集や解析を、効率的に実行するタイプの共同研究である。ドイツの一流大学は、ある意味サービス事業として企業の研究開発支援を柔軟に行える体制を整えている。自分達が必要としているデータや解析結果など共同研究プロジェクトの要件を、企業側の担当者が明確に定義出来るならば、非常に効率的な新システム事業の開発となり得る。

ただしこれらの例は、企業研究活動としてあくまでも補完的な位置づけのものであり、研究開発の主軸は自社内リソースによる自社内での活動であった。

ところが現在のように、技術が急激に進歩すると同時に異常気象など地球規模の課題も急激に深刻化してきて社会や市場が大きな転換期を迎えると、将来の基幹事業の芽を育成するためには、これまで以上に広い技術範囲をかなりの高度なレベルで、しかもスピーディにサーベイしていくことが必要となっている。そうすると、将来ものになるかもしれない新しい技術の実用化の可能性を見極めるあたりまでの比較的高リスクな研究開発を、それもできるだけ沢山の新技術について短期間に実施するためには、新技術を生んだ頭脳と設備を有する大学と大学側が主力となるくらいの深い連携体制で、効率的に研究開発を行えるようにする産学連携の深化・高度化は有望な試みとなる。

また国も産学連携は科学技術・経済発展の重要な手段だという認識の下、様々な支援プログラムを用意してきた。大学も、少子高齢化が進む社会の中で生き残り・発展するには産学連携がこれまで以上に重要だという認識の下、国が準備する産学連携支援プロジェクトファンド獲得、獲得後の推進のための努力を強めている。

このように日本全体としては産学連携を企業の研究開発の柱にしていこうとの機運はあるが、企業が産学連携を新事業のための技術開発の基軸とする、そのような産学連携を活性化させるためには、企業にも大学にも強化すべき点がある。ここでは私が重要と考える4つの課題、①産学連携プロジェクトを推進する方針の確立、体制の構築、②産学連携プロジェクトのベースとなる情報共有・交流の常態化、③新事業のサプライチェーン全体での調和的な技術開発のための戦略的なコンソーシアムの形成、その基盤となる研究者・技術者のネットワーキング、④博士課程の学生の積極的な参加を促す仕掛け等若手人材育成の強化、について私見を述べる。

課題1:産学連携プロジェクトを推進する方針の確立

これまでは大学が生んだ芽の技術を企業が企業内の研究開発リソースを用いて実用化してきたのが、新しい産学連携では、将来事業のための新技術の実用化の可能性を見極めるまでの、かなりの部分を大学のリソースを用いて産学の連携で実現していくことになる。将来事業創生を担うこのような産学連携プロジェクトは、企業にとって最重要の投資の一つであるから、そこにはトップマネジメントのコミットメントが不可欠である。またプロジェクトリーダには従来の社内プロジェクトよりも複雑なプロジェクトを纏める能力が必要となる。一方大学側には、産学連携の土台となる知財創出の強化、知財ポートフォリオ管理体制の強化が求められる。

  • 企業トップマネジメントによるコミットメント

私が現在関係している化学会社では、複数の将来のゲームチェンジャー候補事業に必要な技術開発は、産学連携を中心に行うという新たな試みを始めた。社長から任命されたプロジェクトリーダが関連分野で有力な大学に連携講座の開設などで研究体制を構築する。社長は各プロジェクトの報告会に出席して積極的に質疑に参加する事でプロジェクトの大きな方向付が定まっていく。プロジェクトの報告会には必要に応じて大学の先生も参加するので、会社の意思が自然に大学とも共有される。社長は無理な場合でも、予算の決定権が有る事業責任者が主体的にコミットすることが重要である。

  • 将来事業創生シナリオにおける産学連携プロジェクトの位置づけ、新技術実用化要件の明確化

新事業と言っても、その企業に全く地の利が無い分野で事業を興すのは難しい。現状の事業モデルを出発点として、その変革のシナリオの中に新しい事業を興すのが現実的である。(文科省 NISTEP(科学技術・学術政策研究所)の報告(イノベーションの画期性と企業成長:全国イノベーション調査を用いた分析、2021年)でも従来と全く異なる新製品では企業収益への寄与が小さいと報告されている)。大学発の新技術を基に新事業を計画する場合も、従来の事業モデルやその変革の中での当該新技術の位置づけを明確にして、その上で新技術実用化のための要件を定義することが重要である。そのためには事業部門や事業企画部門なども産学プロジェクトに主体的に参画していく体制が必要である。

  • 企業における産学連携プロジェクトリーダ研究人材の育成

前項で述べたように、産学連携プロジェクトでは企業の事業戦略と大学の技術シーズを調整して統合する事が必要であり、前線でプロジェクトを牽引する人材にはそのようなファシリテータ能力が必須である。

また、個人で世界と闘っている個性豊かな大学の研究者を束ねるのは、団体戦プレーヤーとして訓練されているメンバーを束ねる企業内プロジェクトの運営とは別の方法論が必要である。産学連携プロジェクトリーダには、関連する技術や業界に関する深い知見を有していることと共に、専門分野の異なる複数の大学研究者から成るプロジェクトチームを統括する能力が必要である。知財化と論文発表の調整も企業内研究以上に重要となる。企業において、大学研究者などの社外人材を束ねるプロジェクトも遂行出来るオープンイノベーションプロマネ育成プログラムの強化が必要であろう。

  • 大学における知財創出の強化、知財ポートフォリオ管理体制の強化

産学連携強化の前提は、大学が革新的な知財を生み続けることである。経済産業省 産業技術環境局大学連携推進室が発行した「大学における産学連携活動マネジメントの手引き(平成 28 年 3 月) 」では、大学が生んだ基本特許が継続的な産学連携の原資あり、大学としてそのような特許を切り売りせずに保持する事が重要であることを示唆している。また同手引きには、創出した知財を戦略的に特許化することや、特許のマネタイズにおいてTLOが大きな役割を担い得ることも述べられている。このような、TLOと一緒になった知財ポートフォリオ管理体制の強化が重要である。

当然のことながら大学における知財創出の強化、知財ポートフォリオ管理体制の強化には資金が必要である。大型競争的資金だけでなく、大学が使えるベースの研究費を手厚くする政策が絶対的に必要である。また、大学としても新技術を基に興すベンチャーを売るなど、創生した知財を小さく切り売りすることなく大きく財産化する活動を活性化すること、そのための経営基盤強化が不可欠である。

課題2:産学連携プロジェクトのベースとなる情報共有・交流の常態化

産学連携を活性化するためには、産学が出会って未来を語り合う場が必要である。産官学が日常的に交流して協創する場の確立と維持強化と、そのような協創場の情報を広報する努力が重要であると考える。

実際、各大学で様々な分野毎や分野を横断するコンソーシアムとかプラットフォームなど、産官学更には市民が集まって未来を語りあったり技術動向情報などを共有したりする場の創生が進められている。このような協創場への参加を望む企業も多いと思われるので、コンソーシアムとかプラットフォームなどの設立とか存在を、SNSの活用やトップ外交での宣伝等々、もっと積極的に広報する努力が重要であろう。

また種々の産学連携プロジェクトファンドを運用するJSTでは「産学官連携ジャーナル」という広報誌を発行していて、そこには毎月興味深い内容が満載している。情報誌の存在を広く知らしめる努力がもっと有っても良いし、また、せっかくなので、各地の協創場のデータベースも整備してデータ検索サービスも提供しても良いのではと思う。

プラットフォームやコンソーシアムなどの協創場は創設にもそれなりにエネルギーが必要だが、維持し更に強化するための労力やお金の確保はより大変であり、設立にあたっての維持強化可能な設計と、船出後の継続的な運用努力が重要となる。

多くのプラットフォームやコンソーシアムでは会員の会費が活動原資なので、会員が満足する運営が肝心である。一番は幹事となっている大学が、魅力的な知財とそれを基にした機会を生み続けることであるのは言うまでもない。それに加えて、当該分野の動向や展望、幹事大学の競合ポジションなどの最新の情報を提供することも大きな魅力となる(創出した技術・知財の市場価値の見える化)。

企業が関心を示す新技術では、世界中に競争相手がいる場合が殆どであろう。特許が公開される前だと当該新技術の革新性や強みを客観的に判断するのが困難ではあるが、大学の研究者は学会や論文での発表、様々な研究者ネットワークからの情報などで新技術のポジションを把握しているはずである。そういう情報をエビデンスも含めて、見える化して判り易くする努力がもう少し大学にあって良い。知財の価値の見える化という観点では、研究者によるピアレビューと同時にTLOによる知財の市場価値調査なども有効であろう。

大学と企業を繋ぐために、大学が地域の有力機関と組んで活動する事も有効である。例えば先に述べた経産省発行の「大学における産学連携活動マネジメントの手引き(平成 28 年 3 月) 」では、地方大学が地域の金融機関と連携して、地域企業の事業ニーズと大学の知財とのマッチングを図る試みを通じて、産学連携を活性化させている事例も紹介されている。また、先に述べたドイツの大学の例のような、産学連携プロジェクトを大学のサービス業としての運用も出来る体制が確立すると、企業にとっても大学にとっても益がある。

大学が、これまでに述べたような産学連携活性化に対する様々な施策を実施するためには、企業との交渉や学内を纏めるプロジェクトファシリテータの育成、包括的な知財データベースの整備、法務・公報等研究管理部門の整備、等々大学の経営管理体制の強化が必要となる。ただ、特に地方大学の規模ではそれによるオーバーヘッドの増大が問題である。一法人・複数大学化で複数大学の本部機能を集約強化すると同時に、地方経済代表、強み分野の関係諸機関代表などを加えた法人経営陣によるリーダーシップで、特色ある大学へのリストラを進める事も必要であると思う。

課題3:新事業のサプライチェーン全体での調和的な技術開発のための戦略的なコンソーシアムの形成、その基盤となる研究者・技術者のネットワーキング

事業開発では多くの場合、新しいサプライチェーンの構築が必要となる。新たなサプライチェーンの各部分でも新しい技術開発が必要な場合、それらすべてが完結して初めて新事業が成立する。特にエネルギーや電力システム、交通システム、水循環、防災、防衛、炭素循環システム、食糧等の社会インフラに関連する分野では、多くの技術分野や業界で形成されるエコシステム全体での協調的な技術開発が必要であり、また近年はnexusという観点からも、エコシステムでの協調が従来にも増して重要になっている。

更に、グローバル市場での競争に勝つために少しでも早く、新事業を立ち上げることが従来に増して重要になっている現在、事業エコシステム、サプライチェーン全体での調和的な技術開発を実現するための戦略的な研究開発コンソーシアムが不可欠となっている。場合に応じて、複数の産学連携プロジェクトが集合して研究開発コンソーシアムを形成して、その中で各産学連携プロジェクトなどが相互に情報やデータを共有できる事が望ましい。方法としては、企業あるいは企業群がリードして複数の大学に跨る研究開発コンソーシアムを形成する場合、大型国プロの中核大学がリードして複数の大学、複数の企業に跨る研究開発コンソーシアムを形成する場合なども有るし、産総研、電力中研、国立環境研、国立防災研などのミッション特化型の公的研究機関や準公的研究機関が中心となって複数の大学、複数の企業に跨る研究開発コンソーシアムを形成する方法も有効である(例えば産総研 CO2分離回収・資源化コンソーシアム)。

また、必要に応じてそのようなコンソーシアムを短期間に構成できるようにするためには、普段から研究者や技術者間でのネットワークが形成されている必要がある。そのためには、研究者や技術者間でのネットワークを促進、拡大する機関として既存の学会活動を活性化するのが効率的であると考える。

各省庁やその管轄機関による技術ロードマップや将来シナリオの策定等が実施されることが多いが、そのような活動を学会に委託することなども学会の活動を活性化させ研究者や技術者のネットワーク強化につながると思う。また学会でも、学会の研究会で国プロと連動したコンソーシアム的活動を実施(例えばターボ機械協会HPC分科会と「ポスト京」国プロの連動等)したり、企業技術者に対する学会からのアプローチ、例えば講習会・セミナー・ワークショップなどの機会の提供を増やしたりする努力は有効である。一方で企業も、学会活動、各種研究会活動への従業員の参加を支援するが結局は企業にとっての投資になる事を理解する事が必要である。

課題4 博士課程の学生の積極的な参加を促す仕掛け等若手人材育成の強化

産学連携プロジェクトは、優秀な学生を将来の技術リーダや事業リーダに育成する機会になる事も企業にとって魅力である。ただ近年、我が国では修士課程から博士課程に進学する学生の割合が減り続けている。興味をもった修士が博士課程の学生としてプロジェクトに参画して、サブプロジェクトを纏める事で企業の技術リーダ候補に育つ、という途を活性化することが必要である。各大学において、博士課程の学生をRA(リサーチアシスタント)として雇用して給与を支給する、という制度も出来ているので、大型の産学連携プロジェクトでは必ず博士課程の学生をRAで雇用する、というような形でこれを活用するのが実効的である。更に複数人の博士課程の学生をRAとして雇用するならば、そのうち一人分はプロジェクトの間接経費分で賄う、というような工夫は企業側のインセンティブともなる。

国も、博士人材や若手研究者育成のための原資を創出する工夫をいろいろ始めている。ただ産学連携の中で各種施策を活用するためには、国や大学が創生・強化している博士学生支援策や、若手研究者支援策を企業側にも理解してもらうことが必要である。そのためには、大学が各種施策の利用例や、利用パターンなどのケーススタディを纏めた資料を準備するなど、企業による各種制度の活用を促進するような工夫が重要であると考える。

また個々の学生、研究者の選抜や育成は大学のミッションであるが、企業側にも奨学金やリクルート活動と上手く関連させて学生や若手研究者を支援する工夫が有っても良い。そのためには企業の人事部門が産学プロジェクトに少し関与する体制も必要かもしれない。

本稿の終わりにあたって

産学連携は我が国の科学技術を支える礎でもある。本稿ではその更なる推進に向けて私が重要と考える課題についての私見を述べた。本稿の内容を先に技術経営士の会の会員に口頭で報告する機会があり、会員諸氏からいろいろと貴重なご意見をいただいた。その中で矢野会長からは、本稿で述べた内容から一歩進めて本会としての新しいアクションに進めて欲しい旨のご意見があった。産学連携強化に向けた技術経営士の会としての新しいプログラムについて継続して考えていく所存である。

 

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