日本の研究開発のあり方「デジタル化時代の日本企業活性化提言」

岡野 勝

技術経営士の会

1.はじめに

本年度の技術経営士ジャーナル特集テーマ「日本の研究開発のあり方」執筆に当たり、何処に(誰に)向けて提言すべきかと悩んだが、STAMPが支援すべき中小企業の経営者の皆さんに元気を出してもらえるように、今なお残る日本の強みをベースに企業活性化への提言を考えてみた。

 

2.情報通信技術(ICT)のトレンド

無線通信の世代交代に伴って下表のとおり主役が交代してきた。

一方、有線通信では光ファイバーとインターネットの普及でネット経由の情報処理サービスXaaS(X as a Service)がSaaS→PaaS→IaaS(S:Software、P:Platform、I:Infrastracture)と拡大し、ネット経由でコンピュータや情報を利用するクラウドが当たり前(Cloud Native)になってきた。XaaSの概念は情報処理サービスに留まらず、MaaS(M:Mobility)のような情報通信技術を活用することによる自家用車以外の全ての交通手段による移動を、1つのサービスとしてシームレスにつなぐ新たな移動の概念等、あらゆる分野に広がっている。

ICT(Information Communication Technology)のトレンドは <クラウド、AI、IoT>であり、これらに共通するのは、ネットワーク効果とサービス化による「所有から利用」の流れといえる。使いたいときに使いたいものを必要な(量・期間)だけ使える経済性の高さから、今後この流れはますます加速すると考える。

トレンドの裏にある本質(サービス化が進む理由)は、[商品自体の価値 < 利用時の経験価値(UX:User Experience)]であり、「所有」から「利用」へ、「もの」から「こと」へ、「製品」から「サービス」への変化と考える。サービス化の今後はデジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)の進展である。DXとは「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に深化させる」という概念であり、第1フェーズ(IT利用による業務プロセスの強化)、第2フェーズ(ITによる業務の置き換え)から現在は第3フェーズ(業務がITへ、ITが業務へとシームレスに変換される状態)に移行中である。

 

3.第4次産業革命は日本再生の大チャンス(出典※1)

第1次産業革命は18C後半の蒸気機関による動力革命、第2次産業革命は20C初期の電力による自動化、第3次産業革命は近年の情報革命、そしてこれから起こるであろう第4次産業革命は「デジタルトランスフォーメーション革命」であると云われている。

IoT(Internet of Things)による社会のスマート化の進展が起こる5G時代では、モノがインターネットに繋がるので「言語」ではなく「数値」が扱われる。また、主戦場は生産現場であり、「クラウド」でなく「エッジ」での処理が重要となるなど、今なお残る日本の強みを発揮することが期待される。まさにIoTの進展による第4次産業革命は日本再生の大チャンスである。

 

4.提言

4-1. 新事業への挑戦

株主資本主義に対して「会社は社会の公器」という日本発公益資本主義が提唱されている。(出典※2)
STAMP活動の基本方針にも据えるべき考え方と認識している。公益資本主義実現のための3つの柱は次の通り。
① 社中分配…利益は株主だけでなく社中(株主・顧客・社員・取引先・地域社会)に公平に分配する
② 中長期投資…短期利益を求めつつも中長期的課題にバランスよく取組む
③ 企業家精神による改良改善…社会のニーズに応えるためリスクを取って果敢に新事業に挑戦する
近年日本企業に欠けており、企業活性化の最重要課題は、③の新事業への果敢な挑戦と認識する。

4-2. イノベーションを生む組織と人材育成

リスクをとって果敢に新事業に挑戦する為には、イノベーションが必要である。「世界標準の経営理論」(出典※3)からイノベーションに関する理論を拾ってみた。

(1)イノベーションの理論「両利きの経営」・・・[ジェームズ・マーチ1991年 組織学習]
「知の探索」と「知の深化」を高レベルでバランス良く実現すべきという理論である。
「知の探索」とは新しい知の追及であり、経済的・時間的にコスト高で不確実性も高い。
「知の深化」とは既に知っている事の活用であり、確実性は高くコストも低い。

「知の探索」と「知の深化」を高レベルでバランス良く実現する事を、右手と左手が両方使えるという意
味で、両利きの経営と呼ばれている。しかしながら企業はどうしても知の探索が疎かになり、知の深化
に傾斜する傾向がある。日本企業の多くがコンピテンシー・トラップ[「知の探索」<「知の深化」]に
陥り、中期的なイノベーションの枯渇を招いている。

企業が構造的な両利きを成功させるためには下記の2点が重要とされている。
① 新組織に必要な全ての機能(開発・生産・営業)を持たせ独立性を担保(出島組織)
② トップの覚悟:新組織の孤立防止・評価基準見直し、既存組織との資源活用交流促進

大企業に見られる「新規事業開発部」「○○推進部」の顛末はこの2点が不充分で、出島組織での事業化失敗が多いのではないかと考えている。担当事業が全て黒字の組織は将来危うい。既存組織内(部・課レベル)に健全なる赤字事業を持って将来の事業化を目指すことが重要と考える。

組織レベルでもう一つ重要なのは人材の多様性である。組織内に多様な人材がいる(組織ダイバーシティ)ことも重要だが、1人の人間に多様な幅広い知見や経験を持たせる(個人内多様性)ことがより重要と考える。若い頃から複数の事業本部や他社と連携する機会に恵まれた自身の経験から、個人内多様性の重要性を実感している。組織内に埋もれている人材を、若いうちから積極的に社外(子会社・顧客)に放出し知の探索をさせることは、人材育成にも役立つと考える。

(2)弱いつながりの理論…マーク・グラノヴェッター 1973年「SWT(Strength of weak ties)理論」
イノベーションは辺境からやってくる。弱い繋がりこそがイノベーションを引き起こすとの考え方で
ある。

従来日本の大企業では事業本部間の交流が少なく、社内ですら弱い人脈が形成されてこなかったので
はないか。同じ分野の人間とばかり付き合っていては新しいアイデアが広がらない。コロナ禍で社員に副業を認める企業が出始めており、副業で得た知見が本業に活かされる好事例が報告されている。また産官学金連携によるベンチャー・スタートアップとの協業や地域企業の協業によるイノベーションプログラムが加速している。自前主義からの脱却とオープンノベーションへの取組に期待したい。

4-3. AIの活用とDXの推進

日本経済を支える製造業が現場で培った知見や技術を、情報技術(IoT/AI)と融合させることにより新たな価値創造につなげることが求められている。

<AI化の入口と出口>(出典※4)

AI化の入口系とは外部情報の仕分け・識別であり、出口系とは実産業での用途または仕事の機能(調達、製造、物流、マーケティング、人事)である。入口側は業界横断的すなわち水平的、出口側は業界あるいは機能に特化した垂直的と言える。垂直領域は分野ごとの深い専門知識・知見に基づく作りこみと、汎用性だけでないカスタム力が重要である。すなわち、日本の持ち味の一つである現場、顧客に寄り添う力が活きるときである。

DXのスタートラインはやりたいこと、解決したい課題を明確にすることである。(出典※5)
ここで私が業務改善で実践してきた手順について紹介する。

a.現状分析(問題点の抽出)…問題点が間違っていると対策も間違う
b.対策(問題点の裏返し)…自部門で出来る対策を考える、課題から入ると解決できない
c.具体的対応策(アクションプラン)…ひと・もの・かね・期限
d.課題(自部門で出来ないものが課題として残る)…課題は全社で考える

(a~c項)自部門問題点の対策とデジタル化への準備をしながら、(d項)全社的な課題解決に向けたDXへと段階的・継続的な取組を提案したい。

DX推進プロジェクトに必要な人材は、課題を抱えている現場をよく知る人とITエンジニア(データサイエンティスト)である。社内にITエンジニアがいない場合、早い段階でAI会社の協力を得るのが得策である。近年中小企業に対しAI戦略提案から開発まで一貫して支援する企業が台頭している。これらAI支援企業の活用をお勧めする。

更に自社技術のオープン・クローズ領域を明確にしたうえで、他社や社外機関との連携による共創が新たな価値創造に有益と考える。

 

5.おわりに

「金融の米国・ものづくりの中国」のはざまで日本の目指すべき道は、薄利多売からの脱却と認識する。
・世界の90%の富は10%の人(6.5億人)が握っている←これを日本のターゲットとし
・残り10%の富を分け合っている90%の人(70億人)←こちらは中国に任せる

日本のセイコークオーツの出現で壊滅寸前にまで追い込まれたスイス時計産業、その復活劇に学びたい。
→序章:デザイン重視のSwatch →終章:時計職人による時計から宝飾品の世界へ
流石国際競争力1位のスイスである。フランクミュラー時計工房を見学した際、小型部品工場に整然と並ぶ加工マシンは大多数日本製であった。日本のものづくり現場力にも改めて感心させられた。

DXへの取組みは待ったなしである。第4次産業革命は日本再生の大チャンスと捉え、経営者の皆さんの新事業への果敢な挑戦に期待したい。STAMP東海支部としても、新たなビジネスを生み出すネットワーク・場づくり、地元企業の協業活発化を支援してゆく所存である。

[参考文献]
※1.藤原洋 全産業「デジタル化」時代の日本創生戦略 PHP研究所 2018年9月4日発行
※2.原丈二 「公益」資本主義~英米型資本主義の終焉~ 文春新書 2017年03月20日発行
※3.入山章栄 世界標準の経営理論 ダイヤモンド社 2019年12月11日発行
※4.安宅和人 シン・ニホン ニューズピックス 2020年2月20日発行
※5.石角友愛 いまこそ知りたいDX戦略 Discover21 2021年4月25日発行

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