日本の研究開発「まとめ」

STAMP R&D研究会
事務局
海野 忍

技術経営士の会では、2021年度を通して「日本の研究開発」と題し、日本における研究開発の状況、問題点、進むべき方向について議論を重ねてきた。その成果は既に、本技術経営士ジャーナルに9回に渡って連載してきたとおりである。

本稿ではこれらの提言をとりまとめ、総括的なまとめを試みることとする。

1.研究開発方針

参加者のほとんどが、研究開発を進める上で、将来ビジョンが重要であると訴えた。たとえ経営側の反対があっても、ビジョンに従った研究開発の遂行は進めるべきであるし、場合によっては経営サイドとの駆け引きも必要になるとの意見もあった。

研究を進めるにあっては、裾野を広く、目標を高く、という「富士山型」を目指すべきとの提言もあり、日本は専門家集団が個別化しており全体が見えていないとの指摘と相通ずるものを感じた。そして、「富士山」は一つではなく、連山にしていく必要があろう。

日本は、フェールセーフの設計、安全性技術は広く普及しているとの意見もあった。一方で創造的でイノベーティブな開発が弱いとの見方もある。これらを融合することができれば、日本の研究開発も世界の中で重要な位置を占めることができるのではないだろうか。

日本では、これまで求められてきたリニアな成長の延長ではなく、社会のニーズを捕らえた研究開発を進めていく必要がある。これができないと、たとえGNPが向上しても豊かさが失われる結果となるだろう。

2.研究開発と社会のコンセンサス

研究開発を進めていく上で、国民のコンセンサスを取ることの重要性を指摘する声もあった。例えばエネルギー開発を例にとると、現在の日本で原子力の開発に賛同を得ることは非常に困難であろう。もしそれが必須になるのであれば、国民の意識を変えていく必要がある。研究開発は研究者だけの都合で進められるものではない。

さらに、研究開発の結果を社会実装する際には、市民が欲するものにしていく必要がある。社会を改造していこうという試みは、これまで産官学が取り組んできたが、ここに民を加える重要性が今後ますます増すであろう。日本ではなぜGAFAが現れなかったのか、との疑問に対し、日本の目標設定が社会のニーズに合っていなかったとの意見は、重視すべきものだと考える

時節柄、コロナワクチンも話題に登った。日本の製薬業は長年、米国、英国に続く世界3位の地位を保ってきているが、ワクチンはまったく追いついていない。丸山ワクチン、薬害エイズ問題など、マスコミによるバッシングが続いたことから、各企業では避けるようになってしまったと言う。社会の動きが研究開発に悪影響を与えている例であるが、どうすればこの愚を繰り返さないようにできるのか。研究者にとっての課題の一つであろう。

ワクチン開発が進まないもう一つの理由に、臨床試験に臨む希望者が欧米に比べ非常に少ないということがあるとのことだが、これを国民性として割り切っていいのだろうか。

3.人材育成

「ユーザ視点に立てるような人材」を育成するには、どういう教育が必要なのか、については多くの議論が交わされた。同時に、「System of Systemsの思考を持ち全体俯瞰ができる人材」の育て方、「ビジネスイノベーションを興す発想ができる人材」の育成なども話題として登った。これまでの日本は、こういった視点から研究者を育成してきただろうか。どうしても企業の業績、論文の質と数、学会での地位向上といった視点が優先してこなかったか。見方を変えていく必要はあると思われる。

日本における著作権、各種規制などが、若手の自由な発想を拒んでいるとの意見もあった。ルールの解釈、運用方法など、企業として取り組む余地はありそうだ。

研究者を直接顧客と会わせ、現場の実態を認識させることも、たいへん有効だった、との紹介もいただいた。

戦後教育のまずさについての指摘もあった。明治維新、日本が参画した数々の戦争など、きちんと見つめ直し、何が良く、何が悪かったかの反省をすることで、今後の在り方を考える力を養うべきである。そのためには若者に対するSTEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)教育にArtを加えたSTEAM教育が必要であるとの意見も多くあった。日本はどこを目指すのか、そこに向けてどのように人を育てるべきなのか、改めて議論が必要であろう。

若い研究者を大きなプロジェクトに挑戦させることが、良い経験となって力量を伸ばせるという提言もあった。いかにうまく褒めるか、また失敗からいかに多くを学ばせるかがキーポイントであろう。世界各国と競わせることも、育成面で大きな効果がある。その意味でも若手を海外に出していくことは重要だ。

4.大学との連携

大学と企業とのコラボレーションも、重要なテーマとして挙げられた。以前に比べれば昨今は産学の共同研究が増えてきているが、欧米諸外国と比較するとまだまだ充分とは言えない。産学間での基礎技術の共同研究や、大学からの優秀な人材の企業への派遣などが、交流の基本であろう。

ポスドクを充分に活用しようとしない企業側にも、学問の城として扉を閉ざす大学側にも問題はありそうだ。米国の大企業では、学会活動を通じてどの大学院の誰が、自社が必要とするノウハウを持っているかをリサーチしてリクルートしているという。自社の研究者は自社で育てると考えがちの日本企業とは大きく異なっている。

昨今は、大学発ベンチャーが増加してきている。素晴らしい傾向ではあるが、これを企業が充分に活用できているのだろうか。すべて自社で開発するのではなく、大学発ベンチャーを自社の補完として活用することができれば、日本研究開発はより厚みのあるものとなろう。

5.国際展開へのチャレンジ

現在は、海外との競争に勝てない限り、国内でも生き残れない時代である。前述した人材育成の面からも、海外に進出し挑戦することは研究開発分野でも必須であろう。

海外では、やはり中国の動向は注目に値する。少し前までは鉄道技術などまだまだ稚拙で、失敗した車両を地面に埋めようとした事件は記憶に新しいが、現在は政府の支援と広大な国土を使った実験のしやすさから、日本並みの実力をつけているとのことである。

宇宙の分野でも、この5年間程度で、あっと言う間に世界の第二グループに属している日本を追い越し、米国、ロシアに並ぶトップグループに入った。国の体制の問題はさておき、政府の支援と方向性の明確化によって、科学技術の発展を加速することは可能であることの証である。

米国、ロシア、中国と比較して日本が大きく異なる事情として、軍事技術についても話題に登った。諸外国では莫大なリソースが軍事技術開発につぎ込まれ、それが民間で活用されることによって産業の発展に大きく寄与している。半導体技術、宇宙開発技術など、その典型であろう。この問題は、今後の国策と大きく関係してくる。日本全体で議論すべき事柄である。

6.日本におけるこれからの研究開発

「失われた平成の30年間」と言われるように、日本の技術力は数値でみると確かに伸びが鈍化している。しかし、今回、各分野の専門家からお話を伺ってみると、それぞれの分野で日本として確実に成果は上がっていると感じた。

もちろん、大きなビジョンの欠如、人材育成の貧困さ、産学共同の浅さ、政府支援の不十分さなど、問題はあるが、これらは議論を重ねて解決していけるであろう。

現在の日本でも、精密性、ち密性といった特殊な分野では国際競争力は充分にある。研究開発のビジョンをしっかりと持ち、国全体として研究開発に振り向けるリソースを戦略的に分配していくことで、道は開けていくであろう。

今後の日本の研究開発が世界を大きくリードする日がくることを期待して止まない。

 

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