「夢を描けるか、日本のインフラ事業の本質」 島田 博文

 

昨年、台風で河川が氾濫し大被害が起こり、国土の強靭化が喫緊の課題になってきた。
2018年には北海道胆振東部の地震により大規模停電(ブラックアウト)が発生し、千葉県では昨年の台風による停電が長期化した。こうした災害では、通信の復旧にも時間が掛かったが、話題は圧倒的に電力が大きく、インフラとしての電力の課題がクローズアップされてきている。

笹子トンネルの事故が起きた時には、インフラ設備の老朽化が議論になった。最近では、官民によるインフラ事業の輸出が話題になっている。近年では、リニヤ新幹線や高速道路のリエンジニアリング、再生エネルギー、通信ではマイグレイション、5Gへの対応、海外への輸出では、原子力発電、新幹線、水ビジネス等々、インフラ事業にまつわる話題には枚挙にいとまがない。

そこで今回の技術経営士ジャーナル「特集」では、インフラ事業を網羅的にとらえ、インフラ事業の本質に迫りたい。

幸いにして技術経営士の会には、国土・鉄道・通信・電力・水道等のインフラ事業に深く携わった会員が多い。しかも事業の運営・建設・製造・研究開発・海外輸出等、具体的な分野の課題に取り組んだ経験を擁している。

今まで個別的には深い議論がされてきたインフラ事業について、技術経営士たちが遭遇した多くの経験から、課題を網羅的に集め、それらの経験に基づく見識を開陳し、実のあるインフラ学のようなものの端緒になる「特集」としたい。

インフラ事業の具体的な特徴

まず、この特集のはじめに、インフラ事業について整理してみる。

インフラ事業は、“全国を隈なくつなぐ(全家庭を繋ぐ)という使命を担っていること”、“その使命を実現するには、巨大な投資が必要であり、その構築時間の長さを考えると国の関与が欠かせないこと”、“国の将来ビジョンをもとに各インフラ事業の長期計画を策定しなければならないこと”が、大きな特徴として挙がる。また、永遠に使用するということを念頭に構築しなければならないため、“時代と共に変わる生活環境の変化に耐えうる技術革新への対応を要すること”、さらには、海外での事業においてはナショナルフラッグとしての機能も期待されることから、“国の支援が必要であること”などもインフラ事業の特徴である。

インフラ事業は民間主導か、国家主導か?

インフラ事業は、上記のような様々な特徴を備えるが、その公共性と巨大な投資を伴うことから、経営形態もしばしば議論になる。「誰が・何時・幾ら使ったかが分かる事業は民間でやるべきだ」(鉄道、電力、ガス、水道、通信など)という税を使うときの受益者負担の原則と、「公共性の高い事業を、金儲けの手段にしていいのか」(国道、県道、河川など)という議論である。

建設国債による公共事業は、企業が社債を発行して設備投資をすることと同じ事である。
違うのは、企業は投資をして利益を生み出す組織で、結果責任を伴う。しかし、国は公共事業を通じGDPを上げ、税収を増やすことに対する結果責任を担っていない、と言うより、持てない構造になっている。インフラ事業は、如何なるサービスを国民に提供するかを明確に示し、長期の拡充計画を策定し、それを実現するために世界と競争し勝てる技術開発を推進しなければならない。そこで、国が公共投資を行うに当たっては国家ビジョンを創り、5ヵ年計画を策定し長期の見通しを明確にしたうえで行うべきである。

技術革新の方向性を考えビジョン創りへの挑戦

インフラ事業は、それにかかる膨大な資金の調達に加え、完工後の維持管理の問題、リエンジニアリング、そして、料金設定の問題など多くの課題を抱えている。とりわけ、インフラ事業の使命を実現させる技術革新は、重要な課題である。

技術革新には光と影がある。光でフィットすると少しずつではあるが、影も拡大していくため長期的視野が必要だ。インフラは構築に時間がかかるから、なおのことである。
そのためインフラの構築には計画性が大事で、長期の国家ビジョンの策定が重要になってくる。

今は夢が描きづらい時代だ。グローバル化のスピードが、宗教・民族・イデオロギーが融合する時間より早くなり、世の中を不安定にさせている。今はビジョンが描けず、技術革新は手段が目的化してしまっている。難しいが夢を描くことは全てに優先すべき課題だ。

例えば、将来の実現したい社会的夢があり、それを実現するために如何にAIや5Gを使うかの議論なくして、AIや5Gで何が出来るかの議論をしている。今の世の中は便利になり過ぎている。便利になるとエネルギーの消費量が増え、環境への負荷が高まる。何かを得れば、何かを失う。便利さの追求に限界を設けなければ、人類も地球も将来はない。これからは今の生活レベルを維持しながら如何に環境の負荷を減らすかが技術革新の課題である。

インフラ事業における技術革新のキーワード

1. 環境問題への対応
環境への適合には循環型が必要である。一次産業は循環型だが、二次産業は資源をただ取り、廃棄物は不当投棄で循環型にはなっていない。二次産業を循環型にする技術革新も必要だが、合わせて社会の仕組みや文化を変えることも求められている。そのための効果的な方法は税制を変えることである。二次産業の資源・廃棄物を元に戻すための税金をかけ、それを一次産業に補填し、生産性を向上させ循環型産業の育成を図る。

2. 温暖化への対応
省エネのスロー社会実現のためのレトリックが必要であり、社会インフラを省エネで構築する技術開発、そして、CO2を減らすため原発や再生エネルギーの技術開発が求められる。

3. 受益者が把握できないインフラのサービスへの対応
受益者が見えないため、サービスという概念が薄れている。全国どこにでも心地よく移動するための道路(徒歩)・自動車・鉄道のトータルの最適化を図る技術革新の推進が必要である。河川については、治水によって何を住民に何をサービスするのかというビジョンがあってこそ技術開発が推進される。

4. 情報通信の技術改革
世界はグローバル化して情報通信はスピードアップ依存症になっている。この流れがセキュリティという防波堤を決壊させたときの社会的インパクトは計り知れない。そこでセキュリティの防波堤を強化するための技術開発が急務である。そのキーワードは、デジタルからアナログへ、ソフトからハードへ、バーチャルからリアルへ、更にはハイテクとローテクの融合である。

5. 経済の仕組み
グローバル化のなかで資本主義が行き詰まっている。
資本主義は、「会社は株主のもの」としているが、社会経済にとって一番大事なことは「雇用の確保」だ。「会社は社員のもの」という考え方にシフトする必要がある。
企業業績を上げるために国内の雇用を切り捨てて海外に出ていく企業は本当に国の為になっているのだろうか?
年功序列・終身雇用という日本的経営を再評価し、今の時代に合った形に進化させていく必要がある。雇用を確保し続ける企業が評価される社会の実現のためにはレトリックも必要だ。

 

島田博文

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