夢を描けるか、日本のインフラ事業の本質 アフガニスタンでの日本人医師の土木工事

土木インフラの原点ともいるアフガニスタンの水源確保土木事業

前回、インフラ事業の在り方について説明したが、その原点はここにあるという土木事業を紹介したい。アフガニスタンでテロの襲撃を受け、道半ばでアフガンの地に散った中村 哲医師が手掛けた土木事業である。1991年から、アフガニスタンでは、30年以上の戦乱、ソ連の軍事介入・内戦・反政府と武装勢力VSアメリカの抗争などがずっと続いていた。そのような中、山中に3つの診療所を作って医療活動をしていた中村医師は、2001年アフガニスタンを襲った大干ばつに遭遇し、飢餓線上の者400万人、餓死する者100万人とWHOが報告するような状況を目の当たりにされた。結果として大量の難民・移民が発生して、体力の落ちた乳幼児が診療を待っている時に死亡するという状況になった。そこで、中村医師は、医療活動と並行して、水源確保事業、すなわち、井戸を掘ることを開始した。

 

現地の状況を徹底的に尊重した土木工事

井戸は、日本古来の手法である“上総堀り”で約1600本の飲料水用井戸を掘削、伝統的な地下水路を38ヵ所修復したりしたが、それでも対応できないため、水不足の根源的対策を模索した。2003年、「100の診療所より1本の用水路」を合言葉に、土漠化した耕地を蘇らせるため、「マルワリード灌漑用水路」の建設に取り掛かった。周辺の人が中村医師に、工事は日本の施工会社に頼んだ方がよいと勧めたが、「日本の施工会社に頼めば、機械力を使って一気に作ってしまえるが、アフガニスタンではセメントや鉄筋が高価なうえに、土木業者が引きあげて壊れたときに、現地民では直せない」と、聞き入れなかった。そして彼は、現地の岩、土等を主要な資材とし、蛇籠工、柳技工など日本の伝統的な工法を活用し、また、アフガニスタンの現地人自身で将来維持補修が可能となるように農民600人を動員し施工した。

 

インフラ事業の目標

「100の診療所より一本の用水路」と言う言葉が示している様に、インフラ事業の目標は社会が抱えている問題を基本的なところで解決することである。
結局、彼は、全長25.5㎞、灌漑面積3500ha、灌漑給水能力25-40万トン/日の用水路を建設し、15万人の帰農を実現した。総工費約15億円は、全額が日本の人々からの寄付である。土木の原点とは、中村医師がアフガニスタンで実現したように、「社会が抱えている問題を基本的なところで解決すること」が目標ではないか。つまり、インフラ投資というものはまず課題があって、その課題を解決するために投資をするというところに立ち戻るべきではないだろうか。

 

元運輸省 港湾局長

栢原 英郎

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