夢を描けるか、日本のインフラ事業の本質「防災インフラ」~今後の災害対策の在り方~

今後の災害対策について、ここで述べる課題のほかにも多くの課題が存在するが、ここでは、細部のアイデアを省き主要な論点のみを述べる。2011年の原発事故の国会調査報告書に記されている前書きを、以下抜粋・一部修正のうえ紹介したい。『変われなかったことで、起きてしまった今回の大事故に、日本は今後どう対応し、どう変わっていくのか。この経験を私たちは無駄にしてはならない。社会構造や日本人の思い込みを抜本的に改革し、この国の信頼を立て直す機会は今しかない。』

 

我が国の国土条件と自然災害のリスク

我が国の国土条件は、国土面積に対する可住地面積の比率が小さく、洪水氾濫域に該当する平野部に人口及び資産が集中する状況にある。年間平均降水量は世界の平均と比較して約2倍(約1,700mm)であり、河川が急勾配であることからも水害等に対して脆弱である。また、日本の国土面積は世界の陸地の僅か約0.3%に過ぎないが、世界のM6以上の地震の約2割は日本周辺で発生し、活火山も約1割が日本に存在する世界有数の地震・火山国でもある。

近年は気候変動による水災害の激甚化のみならず、南海トラフ地震と首都直下地震の発生が懸念されており、現在、我が国は国難級の巨大災害リスクに直面している。2018年6月の土木学会の報告によると、南海トラフ地震では経済、資産及び財政的被害額の合計(被災後20年累計)が約1,500兆円、同じく東京荒川巨大洪水では被災後14ヵ月累計で、約65兆円にのぼると推計されている。これらも反映した上で、ミュンヘン再保険会社は世界各国主要都市の自然災害リスクの評価を示しており、「東京-横浜」は世界の主要都市のなかで圧倒的にリスクが高いとされている。また、シティバンクによっても同様の評価がされている。

 

現在の災害対策について

政府は相次ぐ自然災害を受けて、「防災・減災・国土強靭化」を推進している。大規模自然災害発生時においても人命を守り、経済や社会への被害を最小化し、致命的なものにならず迅速に回復する「強さとしなやかさ」を備えた国づくりが進められている。特に先端技術を活用した災害予報システムの改善等、応急対応の進展は目覚ましいものがある。さらに、東日本大震災後の応急復旧の迅速性は世界でも高い評価されている。一方、ハード対策では相次ぐ災害に対応するために、年限を区切った当面の対応として「防災・減災、国土強靱化のための3ヵ年緊急対策」が実施されている。

国際的な潮流を見ると、2015年に「仙台防災枠組2015-2030」が採択され、15年間におよぶ国際的な防災枠組が策定された。同枠組では、全てのセクターにわたる防災の主流化、強靭化へ向けた官民投資の重要性等が優先事項として挙げられている。

 

災害対策の課題と今後の方向性

(1) 事前防災投資の計画的実施

災害対策の中で最も重要なものは、災害が起こる前の備えすなわち「事前防災」である。例えば、2018年の台風21号での大阪市内の防潮水門、2019年の台風19号での利根川上流のダム群等でその効果が示されている。これらは、過去の先人たちが乏しい国力の中でも、営々と安全に対する計画的な投資を行った恩恵を受けているものである。しかし、現在の災害対策及び社会資本整備費用は予算編成において「シーリング対象」となっており、事前防災に対して計画的な投資が実施出来ない状況にある。

前述の如く、我が国は国難級の巨大災害リスクに直面しており、これに向けた中長期的な具体の安全目標水準、達成年次、及び投資規模を定めた事前防災投資の計画を策定すべきである。3ヵ年緊急対策が実行されているこの時こそ、中長期のビジョンを有する計画策定にも注力しなければならない。

 

(2) 防災アセスメントの確立及び民間における事前防災投資の在り方

「全てのセクターにわたる防災の主流化」を実現するためにも、「防災アセスメント」の確立が必要である。環境アセスメント制度は既に確立しており、一定規模以上の社会インフラは場の条件を踏まえた環境面での対応が実施されている。今後、巨大災害への対応及び我が国の社会インフラの海外展開を推し進める上でも、インフラ本来の機能に加え、場の条件を反映した防災機能の追加により新しいインフラ像が描ける可能性がある。そのためにも、「防災アセスメント」の確立が急務と考える。これは社会インフラのみならず、民間の建築物等、民間投資にも大きな影響を与えるものである。

例えば、現在個別の建築物の構造についてはその耐震性・耐火性に対して建築基準法の規定が存在する。しかしながら、場の条件である地震による地盤の液状化、浸水の危険性等が十分に反映されているとは言い難い。その点でも「防災アセスメント」は有効であり、民間の防災投資の誘導にまでつながるものである。

 

(3) 想定外はなし-「複合災害」リスクの評価

既存の被害想定はもとよりハザードマップやタイムライン等のソフト対策は、一種のみの災害を対象としたものであり、いわゆる複合災害を対象とはしていない。過去に発生した災害を見てみると、地震による堤防沈下後に洪水が発生した1948年の福井地震、火山噴火が利根川河床上昇の要因となり水害を激化させた1783年の浅間山噴火などの複合災害が甚大な被害をもたらした。他にも、「津波と洪水」「地震と火山噴火」等の組み合わせも起こり得るものとして考えられ、複合災害を対象としたリスク評価を踏まえた対策の検討が必要である。

前述した「防災アセスメント」の中でその場所で起こり得る複数の災害を認識し、同時発生を想定した事前防災対策の在り方を整理しなければならない。

 

国難級の巨大災害リスクに直面している今こそすべきこと

上記は、今後の災害対策について主要な論点の一部のみであるが、他にも多くの課題が存在する。国難級の巨大災害リスクに直面している今こそ、これまでの災害対策の在り方を当たり前のものとせずに、根本的に見つめ直す絶好の機会なのではないだろうか。持続可能で、かつ安全・安心な社会の実現に向けて、我々は今第一歩を踏み出していかなければならない。

 

佐藤直良

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