夢を描けるか、日本のインフラ事業の本質 自然災害に強いインフラの在り方 ~電力設備を例に~

久野 勝邦

 

インフラ設備は寿命を迎える前の「予防保全」が重要

国民生活の基盤を支えるインフラ(インフラストラクチャー)には、様々な分野があり、各種の公共施設・道路・港湾・橋梁・鉄道・電気設備・上下水道・ガス施設等、多くの人工的に作られた設備が日本経済の基礎を支えている。これらの人工的に作られた設備には、安全に使用出来る耐用年数があるのが普通である。

電力インフラの基本的な機器には、高温・高圧の蒸気の中で運転される部分があり、劣化し易い部分は、2年毎に定期点検するのが普通である。私が実務で携わっていた火力発電設備は、数百度の高温で運転されているため、普通は10年以下の寿命しかない装置もあり、毎年検査して寿命が来て事故になる前に対策する「予防保全」というシステムを導入していたものである。この点は、マスコミ関係者に必ずしも伝えられていない様であるが、電力関係者の間では、極めて常識的なことだ。

常温で使われる各種のインフラ設備といえども、50年以上も使っていると、検査を行い危なくなっている部分は、「予防保全」のために、事故になる前に更新することが必要であり、この点は重要な注意ポイントである。

日本には、経済の高度成長期に作られた老朽化したインフラとも言えるものが多数ある。それらは、寿命が尽きて崩壊する前に対策・更新する必要のある部分が多いので、シッカリと対応して行くことが重要な課題である。もちろん、そのための財源も確保して置くことは、企業そして政治の課題でもある。特に日本列島は、地震・津波等の大きな自然災害がしばしば発生するので、それらを含めた各種リスクに備えて対策し管理する事も重要なポイントである。

 

過去の教訓から学ぶ

重要な例として、「東日本大震災」と「福島原発事故」の分析から、インフラへどの様に対応するべきだったかという点について見直しをして見たい。

1.イノベーションを目指すチャレンジ精神を磨くことが重要

地震学のプレートテクトニクスが確立されたのは、1960年代であった。日本列島は四つの大陸プレートの上に出来た島国であったが、その知見により原発を新しく作り替えるというイノベーションの意識がなかった。

 

2.リスク管理と共にインテリジェンス意識を磨くことが重要

「津波で重大事故が起きるリスクが高い」という議論は、何回も行われていたが、リスクを真面目に議論する習慣が無かった。又組織のトップクラスにも、変化するリスクというものに向き合い考える習慣が無かった。

 

3.仲間内意識を越えて公益を追求する気概を磨くことが重要

日本では、仲間内意識が強く、自分の信念ではなく、仲間の中における自分の立場に合わせた考え方また話し方をする傾向が強い。これは優秀と評価されている人達に特に見られ、「東大話法」とまで言われている。原発に携わる技術者は、日本の中でも優秀な人達ではあったが、それだけに「日本の文化」の中にドップリと浸っていて、対策が後回しになっていた。この点は、「日本的経営を磨く為に」見直しをする良い機会でもあるだろう。

 

日本の文化を考える

過去の教訓から学ぶこととしては、「日本の文化」(日本人の意識)の基本を学ぶ必要があり、これにより日本という国の特徴を理解することが出来る。

  1. 日本は、地震そして津波の極めて多い島国であるばかりでなく、地殻も不安定であり、111個の活火山から構成されてもいる。しかも、台風等の気象状況も極めて不安定であり、これ等に対応する為の安全性をシッカリと考えて行く必要があり、「技術と経営」を総合した判断力が、極めて重要である。(参考図書)「日本列島の誕生」:平朝彦著(岩波新書)
  2. 日本人の無意識の中には、「言霊信仰」と言われるものがあり、危険なことを議論すると実現してしまうので、避けようとする傾向がある。そのために、リスクと言うものを真面目に議論せず、「技術と経営」を総合的に判断する機会が乏しいのが日本の現状であり、日本の大きな課題である。(参考図書)「安全・安心の「落とし穴」!」:山岸俊男+M.C.Brinton著―(リスクに背を向ける日本人)―(講談社現代新書)
  3. 日本の社会は、西欧のキリスト教社会とはかなり異なっている。西欧のキリスト教社会では、各人の個性は神から与えられたものであり、個性を最大限活用して、神の為・国の為に尽くす事が求められる。一方、日本の社会では、先輩・後輩の関係が重視され、仲間内意識に基づく集団を安定化させるための感情的な一体感が重視され、論理的な議論が少ない。(参考図書)「タテ社会の人間関係」:中根千枝著(講談社現代新書)

 

今後の対応

社会資本とも言われるインフラをどの様に技術管理し、又運営管理して行くべきかは、今後の日本経済のために重要な課題である。最近の電力インフラを見ていて解ることは、電線・電柱に見られる如く、日本の基準には日本の自然災害(最大風速、等)に適応していない部分もあり、大きな災害の原因になることもある。この点は、正に「行政とインフラ」の中で、議論して修正していく必要のある重要な課題である。

公共施設の場合には、所有権を公共主体が維持したままで、運営権の方はAI等の最新の点検技術を駆使した経験のある私企業に任せる方法もあり、どの様にしたら良いかはこれからの課題である。

最近では、老朽化したインフラに対処するために、「国土強靭化基本計画」の見直しも行われており、シッカリした国策を立てて維持して行くことが重要である。更に最近の気象条件の変動も考えて、従来の考え方で進めて来たインフラの強度・安全性についても、見直しが重要な課題となっている。この点は、インフラが老朽化しつつある先進国に共通の課題である。

それと同時に今後のグローバル化が進行する世界に於いては、開発途上国に於いても、どの様なインフラを作り、如何に管理して行くべきかについても大きな課題であり、インフラビジネスの為に日本の教訓を生かして行く事が重要である。世界のインフラ投資の約半分は、アジアで行われていると言われており、日本の重要性は高まっていると言っても過言ではない。

 

 

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