夢を描けるか、日本のインフラ事業の本質 「水インフラ その2」

上田 新次郎

技術経営士の会

 

1.世界の水インフラと水インフラ輸出、及び技術の動向

1.1 世界各国・各地域の状況と問題点

水は人々にとって最も大事な物質であるが本質的にローカルな資源であり、そのインフラとしてのあり様は、気象や風土、歴史・文化・社会通念、経済レベルなどによって大きく異なる。日本を含む欧米先進国の水インフラは整備されており、今後はリハビリ・更新による持続性の確保と水の再利用やゼロエミッションなど環境負荷の低減が課題である。新興国は地域・風土による違いが大きい。中東、北アフリカ、オーストラリアなどは風土として渇水地域であり、海水淡水化など造水が不可欠である。東南アジア、インドなどは基本的に水資源に恵まれ経済成長も著しいが、水インフラ整備は道半ばである。中国では都市部の上下水道はすでに先進国と同様のレベルになり、地方農村部の整備も進められている。BOTなどの手法を駆使し、地方政府投融資平台や外資を含む民間資本により豊富な投資をしてきた。アフリカは広大で風土や社会通念の違いは大きいが、多くの地域で水インフラの整備は不十分で、SDGs6の「安全な水とトイレを」の目標が切実である。

 

1.2 世界の水ビジネス

世界の水ビジネスの市場規模は2020年で約100兆円、毎年4%程度の成長が見込まれている。上水が43兆円、下水が39兆円で市場の82%を占め、残りの18%が海水淡水化や産業向給排水である。事業の中身では、運営・管理・サービスが62兆円、部材・機器・EPC(設計・調達・建設)が38兆円である。この巨大でしかも生活レベルや環境意識の向上で今後も成長の期待できる市場に向けて世界の様々なプレイヤーが参画をしている。運営管理分野は世界の90%強が公共セクターであり、機器・設備供給分野には国・地域ごとに多数の企業がひしめいている。なかで水メジャーと呼ばれるのがヴェオリアとスエズの2社で、給水人口1億人を超える水運営事業からEPC、維持管理まで行う総合水企業である。産業向給排水分野は原則的に自由競争社会であり、民間企業がそれぞれの得意分野でしのぎを削っている。

 

1.3 日本の水ビジネスの海外進出

日本の水関連企業は従来主として国内市場を対象とし、事業内容も部材・機器・EPCが中心であり、管理・運営サービスは公共セクターが担ってきた。2000年代になって世界に誇るべき日本の水環境を構築してきた実績をベースに、水インフラを輸出産業として発展させることが期待されるようになった。もともと日本の水インフラの海外展開はODAとともにあり、1990年代に最盛期を迎えていた。しかしODAは発展途上国向けの政府開発援助であり、産業競争力をそのまま反映したものではなく範囲も限られていた。新たな水インフラ輸出として、部材・機器・EPCだけでなく管理・運営サービスも含めた総合水事業を目指すことが期待された。また上下水、産業給排水に加えて、成長ゾーンである海水淡水化にも焦点を当て、RO(逆浸透)膜など部品のみならずシステムまで目指すことになった。このような広範囲の水インフラ輸出を実現させるには管理・運営サービスを担っている公共セクターとの連携が有効であり期待された。当初、自治体は住民に対し給水責任を負っているものでインフラ輸出は管轄外ということであったが、蓄積した技術・ノウハウを地球環境のために活用するとともに水産業力強化にも役立てようと協力するようになった。もともと主要自治体は東南アジアを中心に研修生の受け入れによる人材の育成や技術援助を行っていた。北九州市のカンボジア水道改善支援などは大きな成果を上げている。技術開発も重要な要素である。従来の技術の革新とともに、今後はIoTなどデジタル技術の活用も欠かせない。個々の企業の努力とともにインフラ技術に関しては産官学連携が大いに有効である。国プロでは2010年代にNEDOの「省エネ型・環境調和型水循環プロジェクト」や、内閣府FIRSTプログラムで「メガトンウオーターシステム」などが推進され、現在はその成果がコマーシャル案件に移行されつつある。さらに総合水事業を目指すにはコンサル力やファイナンス力が重要であり、商社への期待も大きい。商社は水インフラを有望分野と位置付けて水事業への出資などに積極的に取り組んできた。ファイナンスではJBICやJICAなど政府系金融も日本の強みである。水インフラ輸出にはこれら各分野の協力を得ながら、水関連企業のグローバルに発展しようという経営意欲が何よりも重要である。オールジャパンではなく事業の主導権を握るジャパンイニシアテイブがあるべき姿と言われている。マーケットはグローバルであり、競争力のある要素によってサプライチェーンが構成されなければならない。水に限らず海外のインフラ事業ではリスク要因が極めて多い。仕様や納期に加え、種々の商業リスク、政治リスク、為替リスク、自然リスクなどがあり、契約がすべての基になる。情報網を築き、ノウハウを蓄積し、経験豊富なコンサルを活用するなどしながら契約力をつけることが極めて重要である。

 

1.4 水インフラ技術の動向

水道の技術は古くからあり、日進月歩ではないが着実に進歩し変化している。上下水とも伝統的な欧米発のものが世界標準とみなされるが、将来にわたってすべてがそこへ収斂するかはわからない。例えば上水では、広大な水道配管は水を送るのみとし、個別のビルや家の入り口で浄化器により浄化して使うというユースポイント方式が東南アジアや中国で広がっている。これは最近の膜技術の進歩に依ることが大きい。またロサンゼルスやシンガポールなどの水資源に乏しい大都会では上水の水源を下水再生水に求める動きがあり、一部実用化している。これも膜技術の進歩とともに水質分析技術の進歩に依っている。下水では活性汚泥を使った大規模集中下水処理方式が中心ではあるが、この方式の弱点は広大な配管網と処理場が必要であること、廃棄物として膨大な汚泥が出てくること、廃棄物中の大半を占める有機成分を再利用しにくいことなどである。発展途上国や新興国において下水システムが普及し難い一因でもあり、集中下水処理方式だけではSDGs6の目標達成には程遠い。そのため分散処理方式や汚泥の資源としての活用、ドライトイレなど様々な技術開発が行われている。技術革新が水道の将来を牽引することを期待したい。

 

水インフラの構成要素で従来からの日本の強みであった膜など部材、ポンプなど機器、センサーなど部品、さらにIoTなどの事業も常に競争力の強化が必要である。欧米勢のみならず中国は自国の巨大市場と膨大な理工系人材の育成を背景にこれら部品事業においても競争力をつけつつある。

 

2.おわりに

以上、世界の水インフララと日本の水インフラ輸出について概観した。日本の高品質・高信頼の水インフラの維持・継続とともに、日本として持続可能で安心できるグローバル水インフラの構築に貢献することを願ってやまない。

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