夢を描けるか、日本のインフラ事業の本質 「インフラ事業の電気通信はスパイラルに進む」

島田 博文

技術経営士の会

 

私は、既にNTTを退任して長く、NTTの現状について把握しきれてはいないが、NTTを離れたことにより俯瞰して見える世界もあると思い、電気通信のインフラ事業について私の思いを以下に述べたい。

 

持続可能なものは循環する

私の修士論文は「非線形理論」だ。就職してから10年位はこんなに役に立たないことを学んできたのかと思っていが、この理論は人文科学の世界でも成り立つという事に気が付いた。「成長したものは衰退し、衰退したものはまた成長する。」持続可能なものは循環する。即ち、地球上に存続する現象には全て周期がある。景気循環で有名な“コンドラチェフの波”はその代表例だ。人間の創ったものに完全なものはない、常に改革が必要だという考えに繋がった。

電気通信事業は、最初、軍隊の要請で全国縦断の電信網の完成を目指し、逓信省が所管した。その後電話の普及のため電気通信省を独立させ、更に普及を促進するため経営形態を公共企業体である電信電話公社にする。そして「いつでも・どこでも・すぐつく電話」を完成させ、その後民営化され、電気通信という言葉も情報通信という言葉にかわった。技術革新による情報通信需要の進展に伴って経営形態も変化させてきた。

 

恵まれた情報通信事業

情報通信は、技術革新により、新しいサービスが創出され、その需要も旺盛であり、新サービスの構築と同時に既存設備の更改も進み、建設コストも抑えられ、料金も安く設定でき、成長しつづける恵まれた産業だ。

電電公社は、独占権で守られていたが、電信電話の全国普及の義務を負い、加入者債の発行・基本料の設定・料金の認可・税金の免除以外の国からの援助は受けていない。料金の値下げは、民営化による競争効果と言われているが、私は技術革新によるところが大きいと思っている。

 

技術革新が、ネットワークもサービスもスパイラルに進化させる

技術革新のキーワードはデジタル化だ。しかし、人間はアナログ的存在であるから人間と人間のコミュニケーション技術はアナログ(ハード)とデジタル(ソフト)の間をスパイラル進展し、究極はアナログ通信(脳波通信)になると思うが、如何だろうか。

今までの技術革新は効率化が主目的で、キーワードはデジタル化だ。これからのインフラ事業としてはセキュリティ等、効率化以外のニーズへの対応も重要であり、セキュリティはデジタルよりアナログ、ソフトよりハードが強く、ハイテクだけでなくローテクとの融合の必要性もある。今後とも情報通信はリアルとバーチャルの間を行きつ戻りつして、技術は元には戻らないが技術革新はスパイラルに進化していく。

例えば、電話網はギャランティード(アナログ)からベストエフォート(デジタル)へ進化したが、今後はセキュリティの観点から保証型網と努力型網が融合化したネットワークになると思う。また、端末はその多様化の為にネットワークから切り離されたが、ネットワークに、デジタル端末を繋ぐことはかなり面倒な作業が伴う。その解決にはハードが担う部分も増えてくると思う。更に、多様化が一定程度進むと次はワンストップでエンドエンドの通信に責任を持つキャリアーが欲しくなることも十分考えられる。技術革新によりネットワークもサービスもスパイラルに進化してく。

私は、技術革新により設備の陳腐化は避けられないと思っているが、全国の全ての家庭を有線で繋いだ電話網は日本の国の貴重な財産だと思う。コストを掛けてでも守るべきものと考える。

 

経営形態も開発投資の確保の容易さでスパイラルに進化する

インフラ事業、特に情報通信事業においては、研究開発が事業の根幹であり、その開発投資額の確保が事業の成否に直結する。その開発投資の確保が容易な経営形態は、今話題の国家資本主義の経営形態が適していると思う。ただ、なるべく国からの干渉を少なくし受益者を意識した経営をするため、国からの補助金ではなく、受益者からの基本料的なものでの資金調達が好ましい。今までは国営の民営化であったが、世界には民営から国営化への移行を検討している国もある。経営形態もスパイラルに進化していくことを期待する。

 

国土強靭化には長期の国全体の国土計画が必要

今年はコロナ禍でPCR検査や医療崩壊の話でもちきりだ。考えてみればECMOも人工呼吸器もICUもインフラだといえる。またこのコロナ禍での国民や企業支援の施策の実行に時間がかかり、IT化の遅れも指摘されたが、これも大きな意味でのインフラ問題だろう。

それにしても近年水害が毎年起きている。昨年は長野県の千曲川の氾濫があり、今年は日本三大急流である熊本県の球磨川や山形県の最上川の氾濫が話題になった。何故毎年こうした被害が繰り返されるのだろうか。そこで言われるのは「想定外」「100年に一度」という言葉だ。ではどうすればよいのだろうか。堤防を無限に補強することは出来ない。やはりそこにはバランスのよい自助・公助が必要だ。

ハザードマップ内の住民にはそれなりの覚悟を持ってもらう必要がある。一方行政は住民に覚悟を持ってもらうためにも、“いつまでに”“どこまで”堤防を補強するかの計画を明確に示す必要がある。この計画があって初めて双方の協力がえられる。

やはり国土強靭化には長期の国全体の国土計画が必要だが、近年それがないまま国土強靭化がおこなわれているきらいがある。電電公社は6次にわたる電信電話拡充五か年計画を掲げ「いつでも・どこでも・すぐつく電話」を実現した。

この特集の最初の投稿者である、栢原氏の主張にあるように、昔はあった全国総合開発計画が必要だ。一刻も早くその作成が待たれる。

 

国力を高める国によるインフラ投資

今はコロナ禍で、消費需要が生産能力を下回っている。国の消費刺激策としての財政出動は必要であるが、これはあくまでも低迷した経済を元に戻すための施策であり、成長のための施策ではない。国によるインフラ投資は国力を高めるものでなくてはならない。その国力が民間投資を引き起こすためには、インフラ投資のビジョンに説得力があり、明確な計画とその着実な実行が必要だ。

インフラ事業には、国土強靭化だけでなく、鉄道・通信・電力事業も含まれる。インフラ事業の企業体は、努々株主第一主義として、事業を金儲けの手段にしてはならないと私は思う。

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