夢を描けるか、日本のインフラ事業の本質 「通信」その2 ~ICTインフラの現状と将来~

海野忍

技術経営士の会

 

国家を維持するために必要不可欠な、電気通信インフラの現状と将来を考察してみたい。

 

ソフトウェアの拡散

世界各国の社会インフラ発展の歴史を見ると、共通点がある。まず、起業家精神旺盛な天才的人物が現れて新技術を発明し、サービスを開始して大きな儲けを得るが、それを国中に広めるために国が資本投下する。そして、ある程度の段階まで進むと、自由競争に委ねるため民間に渡していく、という過程だ。鉄道(日本国有鉄道→JR)、製鉄(官営八幡製鉄所→日本製鉄)もそうであるし、電気通信も日本電信電話公社からNTTへと変わり、競争原理が導入されてきた。すなわち、社会インフラとして成立させるためには、一度は政府の力が必要であった、ということであろう。

しかし、昨今の情報社会では様子が変わりつつあるようだ。その重要性がどんどん増しているソフトウェアは増産に費用がかからないという特徴があり、それ故に拡散に際して大きな投資が不要であるのが、一つの理由であろう。今や多くの人が活用しているSNSや検索エンジンなどは社会インフラと言ってもよいだろうが、一度も政府の力を借りることなく世界中を席捲してしまった。これからの社会インフラは同じような道を歩むことになるものと想定される。言い換えれば、政府が関与できないインフラが実現していくということである。

 

プライバシーを守りながらより高いサービスを実現できるのか

ところが民間であるが故に、機会があれば利益を得ようという流れになる。これが必ずしも多くの人々の利益にならないことが大きな問題になるだろう。昨今言われるプライバシー問題はその好例である。

現在、Facebook社が提唱しているLibraというサービスは、ネットワークを活用して従来の金融機関が提供していたサービスに比べはるかに低料金で手軽に送金ができるようになるというものである。これが実現すれば、これまで銀行口座を持てなかった低所得者層の人々も経済活動に参加しやすくなる、という大きなメリットがある。しかし、一方で、個人の財産やその移動状況等の個人情報がすべて1企業に握られるというプライバシー問題が発生する。同様に健康に関する個人情報もプライバシーの最たるものであるが、これを企業が収集できれば、医学の進歩や医療費の削減が期待できる。この社会的ジレンマを今後どう解決していくべきなのかは、これからの社会における重要な課題である。

電気通信サービスを提供している各キャリアは、論理的には個人のプライバシーを知り得る立場にはいるが、通信の秘密を守ることを法律で厳しく規定されており、現時点では大きな問題を起こした例は少ない。たとえ問題が発生したとしても、通信は人々の生活に密着しているので今更無くすわけにはいかず、キャリアに業務を停止させることはほぼ不可能であろう。
決済サービスや医療サービスも現時点である程度までは提供されており、これ以上のサービス向上は不要とすれば、プライバシー問題は避けられるかもしれない。しかし、人類の歴史を見ればより高いレベルのサービスを望むのが社会の常であろう。

では、より高いレベルのサービスを、プライバシーを守りながら実現するにはどうすればよいのか。利益追求型の民間企業からサービス提供権限を取り上げ、政府がそれを実施するようにすればよいのであろうか。一部、社会主義国ではこれに近い状況になっているが、当然、政府が情報を牛耳ることに我々民主主義国家からは非難の声が上がっている。では、民主国家が同等のことをやれば問題は起きないのだろうか。今後はこのような議論が重要になってくるように思われる。

 

電気通信サービスをどこまで国家が維持できるか

もう一つ重要な論点は、国家主権の問題である。電気通信サービスが国家を維持するために必要不可欠であることは議論の余地が無いだろうが、どこまでを自国で実現できるようにしておく必要があるのだろうか。現在、電気通信の主流になっているパケット通信を実現させるルータは日本では1社しか製造できず、それも国際的に見れば決して強いとは言えない。昨今話題の新しい無線方式である5G用機器の製造では、ヨーロッパと中国が中心になっており、米国でさえ製造メーカがいない。以前携帯電話を製造していた米国メーカに米国政府が働きかけて作らせようとしたという噂もあるが、当のメーカからすれば、既に他国で先行している事業に取り組んでも勝てる見込みがなければやらない、というのが、一般企業の正しい戦略であろう。

新しい技術を実現させる機器はどんどん複雑化しており、購入して使う側から見ると、中で何をやっているのか分からないブラックボックス化が進んでいる。有事においてそれらの機器がどのような振る舞いをするのか、事前にすべてをチェックすることは事実上不可能になってきている。現在、米中間で争っているファーウェイの問題は、このような状況を反映しているようにも見える。我が国として国家運営のために必須である電気通信サービスをどこまで自営でできるだけの力を蓄えておくべきなのか、重要な政策課題であると考える。

同様のことはコンピュータ産業でも言える。コンピュータのオペレーションシステム(OS)はWindowsにせよAndroidにせよ、ほぼすべてが海外製である。中国も独自OSを作っている。日本では、かつてTRON(トロン)という独自OSを開発したが、米国の圧力もあり無くなってしまった。この状況で、有事に我々のコンピュータを乗っ取られてしまうという危険性を考慮しておく必要があるだろう。

日本の国家主権を維持するためにどこまでを自力でやっておくべきなのか、また、どこまで政府が関与しているべきなのかについて、今後議論が必要になると考える。

1 個のコメント

  • 情報インフラが進むことは望ましいのですが、個人情報の保護が出来なくなることを危惧しています。これからも情報保護が優先出来る社会でありたいと強く願っています。

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