技術経営士ジャーナルインフラ特集まとめ

矢野薫

技術経営士の会

 

技術経営士ジャーナルでは、2020年度の特集として、「夢を描けるか、日本のインフラ事業の本質」と題し、社会インフラのあるべき姿を論じてきた。多岐に亘る業界の専門家らが、自分の経験に基づき、反省と期待を込めてあるべき姿を模索した結果が記されている。OBであるが故に、遠慮なく信ずるところを論じたと思う。

日本のインフラには様々な課題が噴出している。例えば、2018年の胆振東部地震により北海道で全道にわたるブラックアウトが発生したことは記憶に新しい。災害でインフラが損傷を受けることは珍しくなく、事前防災によるインフラの強靭化、そして国土の強靭化は国家の大きな政策目標となっている。

社会インフラは、長期にわたって、安全・安心そして便利な社会を構築するために役立たねばならない。かつては「国土の均衡ある発展」を目指した全国総合開発計画という長期計画があった。しかし、政府はどうしても年間予算に縛られ、長期計画を実行するのはなかなか難しい。我々国民が皆で声をあげていくことによって、理想的な社会インフラが構築できるのではないか。

日本のインフラが急激に整備されたのは、高度経済成長期であった50年前だ。大部分のインフラは老朽化しつつあり、中央道のトンネル崩落事故はその危険性に警鐘を鳴らしている。しかし、インフラの更改には莫大な資金が必要であり、これをどう確保していくかも大きな課題である。ここでも長期的計画が必要だ。

社会インフラは誰が構築すべきか、というのも大きなテーマになった。これまでは政府が整備するのが常識であり、ある程度基盤が出来上がると民間に移行するパターンが多かったのは事実だ。しかし、民間がやることで効率が上がる場合もあれば、問題が発生する場合もある。また、ソフト中心になると、最初から民間でできてしまう場合もある。水道サービスの民間化も話題になったが、適切な規約の基で実施すべきとの意見がある。

我が国のインフラを考える上で、日本という国の地震、台風等の自然災害の多さや、日本人の気質を無視することはできない。自然災害に耐えうるハードを作ることも大事だし、個性より集団を大事にする日本人の文化が、必要とされる大きな変化を拒む恐れもある。原発事故の教訓は、この文化に根差すものの大きさを教えている。

グローバリゼーションの進展により、物や技術は国境を越えて流通しやすくなった。この前提で、社会インフラをどこまで自国の力で構築すべきかも、大きなテーマである。世界で一番良いものをもって来る、というのは一般社会では常識であるが、社会インフラはそれと同様でいいのだろうか。

国を支えるという意味では、国防、国家主権の問題を考える必要もある。また、情報通信システムでは個人情報などプライバシーを守るという視点も必要だ。これらと経済合理性のバランスをどのあたりでとるべきなのかは、社会インフラを考える上で重要なポイントである。ここでも近視眼的な損得ではなく、長期的視野が必要となるはずだ。

グローバリゼーションは、我が国が輸出で外に出ていく可能性も秘めている。今後のインフラ投資はアジア地域で盛んになるとみられ、我が国の盤石なインフラは彼らにとって魅力的なはずである。インフラ事業は、アジアの真のニーズをつかんで対応すれば、日本にとって大きなビジネス機会となる可能性を秘めている。

社会が変化すれば、必要とされる社会インフラも変わってくるはずだ。人口減少が始まればそれまでの大量輸送、大量交通が必ずしも必要とされなくなるかもしれない。ハードからソフトへと技術の中心が移れば、資金投入の考え方も変わる。ここでも長期展望が必要だし、過去の長期計画を見直す勇気も必要となる。

エネルギーも難しい局面を迎えている。CO2をはじめ、地球環境問題とどう向き合うかが今後の大きな課題だ。綺麗なエネルギーを作ることと、消費を減ずることの両方のアプローチが必要となろう。エネルギーの生産と消費とともに社会の在り方の見直しなども含めて、デジタル化などのテクノロジーで解決策を見出すことも必要だ。ここでもまた長期的視野が必要だ。

ここまで、日本のインフラのあるべき姿を考えてきた。社会基盤として多くの人々が利用するものであるが故に、ありとあらゆるところでジレンマが発生し、バランスの問題が問われるのが社会インフラだ。パンデミックで国民の意識にも変化が見られる。少子高齢化時代を見据えて国民的議論を高め、日本が世界で名誉ある地位を占める長期的なシナリオを国民が共有したいものだ。

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