2021年度信州大学「経営者から学ぶ技術経営」 テクノロジーの進化がもたらす産業構造・社会生活の変化と新たな事業機会 ~新たな競争軸(CASE)の出現~

講師: 三木 一克
元 (株)日立製作所機械研究所 所長
元 (株)日立メディコ代表執行役社長
現 技術経営士

2021年7月1日、信州大学総合理工学研究科 共通科目「経営者から学ぶ技術経営」にて、「テクノロジーの進化がもたらす産業構造・社会生活の変化と新たな事業機会 ~新たな競争軸(CASE)の出現~」と題して、受講生22名の出席のもと対面授業を実施した。本講座では、技術に関する幅広い知見と経営者としての豊富な経験を有する技術経営士の会(STAMP)の講師陣が、新しい時代を牽引する理工系人材に、「技術を活かした経営の本質」を伝え、高度技術社会において全体を俯瞰できる能力を向上することを目的としている。

はじめに・・・

本講座は2019年度にスタートし、今年度で2回目になる。前回は「グローバル市場変化に対応した新たな事業戦略と競争力強化策」と題して、企業で経験した研究開発や事業戦略について講義した。今回の講義では、将来予想される産業構造や社会生活の変化を提示し、受講生が幅広い知識を吸収し社会の変化への対応能力を養う事を目指した。

前回と同様、講義の冒頭に、米国マサチューセッツ工科大学MITのMedia Labの所長だった伊藤穣一氏の9 Principlesの中の“Compasses over Maps” (地図よりコンパスが重要)を紹介した。その主旨は以下の通りである。

  • 変化の激しい現在、知識はすぐに陳腐化し地図はすぐに上書きされる。
  • どれほど地形・境界線が変わっても、コンパスがあれば自分の進むべき道はわかる。
  • 幅広い知識を吸収して世の中を知り、自分の頭で考える下地をつくる。

受講生には、本講座の8回に及ぶ講義を通じて、幅広い知識を吸収し自分自身のコンパスを作るよう要望した。

講義の概要

講義の概要は以下の通りである。

  • AI、IoT、ロボット等の技術革新による第4次産業革命が進行する中で、世界の自動車産業は大きな転換点を迎え危機対応に迫られている。
  • 新たな競争軸 CASE ( Connected / Autonomous / Shared / Electric) の出現は、交通革命を生じるだけでなく産業構造と社会生活にも大きな変化を引き起こす。
  • 特に、ガソリン自動車から電気自動車(EV)への移行は、産業構造にパラダイムシフトを生み、ビジネスモデルが非連続に変化すると考えられる。
  • 自動運転OSの開発を通じて、巨大IT企業GAFAや新興勢が自動車産業に参入しつつある。
  • 次世代交通サービスMaaSは「移動」の概念を一新し、交通の利用効率を大幅に向上する。
  • 近い将来、新しい交通システムが誕生し、都市デザインが刷新される社会が到来すると予測される。トヨタとNTTによる実証都市「Woven City」プロジェクトが、2021年にスタートした。
  • EV用蓄電池により再生可能エネルギーの負荷変動が平準化され、太陽光発電の家庭での利用が拡大する。
  • TESRAの戦略(統合ECU、OTA戦略、agile開発、マーケティング戦略)は、商品構造、ビジネスモデルを根本的に変え、自動車産業に大きなインパクトを与えている。
  • このような状況の中で、日本の現状と課題を国内自動車産業、都市生活環境、都市物流、Vehicle to Home、石油サプライチェーン、急速充電の現状について示した。
  • 自動車産業は技術体系の転換点に突入しており、「技術の補完性」が生み出すダイナミズムにより急速にその転換が加速される。電気自動車(EV)は、充電スタンド、自動運転、再生可能エネルギーとの補完性が強く相互に価値を補い合い高め合うことで普及拡大すると予想される。

 

学生からの「講義レポート」と多くの質問

大学から「講義レポートの課題」を事前に提示するよう要請があり、下記の3点を課題とし、講義の冒頭に学生に主旨を説明した。

  • 本講義で得られた新たな知見
  • 将来の産業構造・社会生活の変化に対する自分自身の取り組み・心構え
  • 日本の現状と課題に対する提言・提案

学生のレポートは講義内容を十分理解した上でのものであった。「自分自身の取り組み・心構え」に関しては、自分自身のコンパスを持ち、変化する環境への対応能力を身に着けたいとの記述が多くみられた。また、製造業に勤める社会人修士の方からもレポートをいただいた。会社として電動化のタイミングで自動車産業に参入したが、本講義で社会的な背景がよく理解できたとの感想もいただいた。

また、講義直後、学生から多くの質問を受けた。同席された担当教授からも大学教育に関する質問をいただいた。本講義のような社会動向を学生に伝える必要性に言及されたが、自然に囲まれ恵まれた環境の中で、大学では専門分野の基礎学力を養成することを最優先に取り組むことを期待したいとお応えした。

最後に・・・

今回の講義は久しぶりに学生が出席した教室で実施したので、講義中の学生の反応を観て講義内容に強弱をつけて進めることができた。そして、今回、熱心な聴講と講義レポートを拝受し、講師として貴重な経験とやり甲斐を実感した。「技術経営士の会」(STAMP)の大学支援活動は、講師と学生の双方にとって、非常に有意義な企画であり、今後も継続・拡大を図れればと願っている。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です