2020年度お茶の水女子大学「プロジェクトマメネジメント特論」ーテクノロジーの進化がもたらす産業構造・社会生活の変化と新たな事業機会ー

講師: 三木一克
元 (株)日立製作所機械研究所 所長
元 (株)日立メディコ代表執行役社長
現 技術経営士

 

「プロジェクトマネジメント特論」講座の主題と目標

 

本講座の主題と目標は、経営者としての豊富な経験を持ち、技術に関する幅広い知見を有する民間企業等の経営幹部経験者から、プロジェクトマネジメントの具体的事例等の紹介を通じて、「技術を活かした経営の本質」を学び、高度技術社会において全体を俯瞰できる能力の向上を目指すことにある。

 

2020年7月29日の講義では、「テクノロジーの進化がもたらす産業構造・社会生活の変化と新たな事業機会」と題して、オンラインにて大学院生16名を対象に実施した。

 

“Compasses over Maps”

 

私の講座は、毎年度開講しており、今年度で3回目になる。過去2回は下記のテーマで講義した。

  • 2018年度「企業における研究開発の役割と新製品開発の施策」
  • 2019年度「グローバル市場変化に対応した新たな事業戦略と競争力強化策」

 

毎回、講義の冒頭に、米国マサチューセッツ工科大学MITのMedia Labの所長だった伊藤穣一氏の9 Principlesの中の“Compasses over Maps” (地図よりコンパスが重要)を紹介してきた。その主旨は以下の通りである。

  • 変化の激しい現在、知識はすぐに陳腐化し地図はすぐに上書きされる。
  • どれほど地形・境界線が変わっても、コンパスがあれば自分の進むべき道はわかる。
  • 幅広い知識を吸収して世の中を知り、自分の頭で考える下地をつくる。

受講生には、「プロジェクトマネジメント特論」講座の13回に及ぶ講義を通じて、幅広い知識を吸収し自分自身のコンパスを作り社会の変化への対応能力を養うよう要望した。

 

講義の概要

 

今回の講義は、過去2回のように企業で経験した研究開発や事業戦略に関する講義ではなく、将来予想される産業構造や社会生活の変化を提示し、受講生が自分の進むべき道を示すコンパスを持つための参考となることを狙いとした。約1年をかけて講義用資料を作成し、本講義で初めてその内容を紹介した。講義の概要は以下の通りである。

 

  • AI、IoT、ロボット等の技術革新による第4次産業革命が進行する中で、世界の自動車産業は大きな転換点を迎えている。
  • 新たな競争軸 CASE ( Connected / Autonomous / Shared / Electric) の出現は、交通革命を生じるだけでなく産業構造と社会生活にも大きな変化を引き起こす。
  • 特に、ガソリン自動車から電気自動車(EV)への移行は、自動車産業構造にパラダイムシフトを生み、ビジネスモデルが非連続に変化すると考えられる。
  • 近い将来、新しい交通システムが誕生し都市デザインが刷新される社会が到来すると予測される。変化する時代に新たな事業を創出し世界をリードするチャンスが到来する。

 

講義用資料を作成するにあたり、慶応義塾大学開発の電気自動車「ELiica」に協力したことを参考とした。「ELiica」は慶応義塾大学中心に38の企業が参画し、2004年に8輪駆動の電気自動車として開発された。2004年3月のイタリアでのテストコースで、最高速度370km/hを記録した。当時、日立製作所エネルギー研究所で開発した3次元圧縮性流体解析技術を、東海道新幹線500系に適用し、先頭形状の最適仕様を設計していた。慶応義塾大学 清水教授からの依頼で、「ELiica」の流体性能を評価した。速度300km/hを越える地上走行車体では、空力抵抗の低減が重要課題であった。「ELiica」は、8輪のインホイールモータを搭載し、床一面にリチウムイオン電池を敷き詰めており、ガソリン車に比べて、非常にシンプルな構造であるとの印象を持った。

 

学生からの感想と質問

 

今回の講義はオンライン形式で実施したので、従来のように講義中の学生の反応は伝わらず、講義直後の学生からの生の感想・質問を受けることもできなかった。講義後、大学側から「リアクション・ペーパーまとめ」(感想16件、質問10件)が送られてきた。学生と対話する機会がなかったので、感想に対するコメントと質問に対する回答を記載し、学生が自分の感想・質問だけでなく、他の学生の感想・質問に対する返答も読んでいただくよう大学側に要望した。

 

学生の感想・質問は講義内容を十分理解した上でのもので、講師としてやり甲斐があったと実感した。また、産業構造や社会生活における将来の変化に対して、「広い視野で注目したい」、「ワクワクする」、「未来が楽しみ」等の前向きの姿勢が多く、将来を担う学生に対して心強く感じた。「技術経営士の会」(STAMP)の大学支援活動は、講師と学生の双方にとって、非常に有意義な企画であり、今後も継続・拡大を図っていきたい。

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