2020年度お茶の水女子大学「プロジェクトマメネジメント特論」ー大型・複合・国際化するプロジェクトにおいてプロジェクトリーダーに要求される資質は何か

講師:野呂 一幸
元 (株)大成建設株式会社 常務役員設計本部長
 技術経営士

 

「大型・複合・国際化するプロジェクトにおいてプロジェクトリーダーに要求される資質は何か」と題して、2020年8月17日、お茶の水女子大学にて講義を行った。講義はオンラインにて実施し、20名ほどの参加者であった。

 

8月5日、猛暑の中向かう茗荷谷

改札を出ると一気に汗が噴き出る。お茶の水女子大学の構内はいつも静謐な佇まいを見せる。正門から正面校舎までの並木が心地よい。今回の「プロジェクト特論」STAMP講座も3年目を迎えた。コロナ禍の中、最終講義者となって様子が見えない中、教室に入った。100名ぐらい入る教室に教官と私2名でのオンライン授業である。開始10分ぐらい前に受講生が集まり始めた。早速、慣れない画面に向かって呼びかけ、部活かチームのリーダーの経験とリーダーとしての心構えを事前ヒアリングした。一人は学園祭のリーダーでスタッフの意見を聞くことに留意したと回答。もう一人は吹奏楽部のキャップテンとしてメンバーとのコミュニケーションに配慮したとの答えが返ってきた。この二人には、講義スタート直後のQ/Aで、問い掛け回答してもらうことをお願いした。

 

本日の講義のテーマ:

『大型・複合・国際化するプロジェクトにおいてプロジェクトリーダーに要求される資質は何か』を表題に、

事例として、『海外プロジェクトにおけるプロジェクトの問題点、課題を見抜く』を挙げた。

 

日本企業が海外で展開する多くの事業・プロジェクトは大型・複合・国際化している。本事例は、大成建設で数多くのプロジェクトで経験したことを紹介し、プロジェクトの問題点、課題を見抜き、プロジェクトリーダーに要求される資質は何かについて焦点をあてた内容である。プロジェクトリーダーは、オーナー代理人、オーナーコンサルタント、チーム内国際人材、国際契約書の手続き等、国内では考えられない問題で力を発揮しなければならない。チーム、コンソーシアムをリードするのに必要な人間力は古今東西同じである。コスモポリタンとしての存在感を示し信念をもって問題・課題に立ち向かう姿勢が重要となる。

 

プロジェクトリーダーとしての心構え:

『日本的精神のプロジェクトにおける価値』について、皆と議論に辿り着ければ良いと思った。

プルンシパル型からネットワーク型に変化したプロジェクトにおいてオーナーコンサルタントが複数化、設計チーム、施工チームがJV(joint venture:建設業における共同企業体)化している。プロジェクトは入手前の事前調査力、入手後のプロジェクトマネージメントにより成果が大きく変わる。プロジェクトの特性を如何に把握するか、プロジェクトリーダーのリーダーシップが重要となり、多彩な専門機能のコンサルタントとの協調が要求される。国際プロジェクトにおいて、欧米・周辺国・現地人材を活用しなければプロジェクトは動かない。外国人スタッフを活用するにはプロジェクトリーダーの信頼獲得は必須となる。如何に捌くかプロジェクトリーダーの真価が問われる。大型・複合・国際化するプロジェクトにおけるプロジェクトリーダーの育成や資質について具体的事例を基に議論することを目指した。

 

3つの国際プロジェクトにおいてプロジェクトリーダーが直面した課題:

新ドーハ国際空港ターミナルビル、ドバイ・ゲートウェータワー、ボスポラス海底トンネル

の3つのプロジェクトの概要と課題を説明、その都度質問を投げかけた

 

プロジェクトを中止するか否か。プロジェクトリーダーと企業トップの判断は異なる。正確な状況分析はプロジェクトリーダーの責任、時間の制約がある中、完全な状況分析を待たずに方針を出すのが企業トップの役割。プロジェクトリーダーは完全な分析資料、データの整わない中判断を迫られることがほとんどで、リーダーシップを発揮しなければならない状況に常にある。その時に必要なのは“自らの知見と価値観”である。

 

講義後のQ/A:

Q: プロジェクトが複雑になると、コミュニケーションの齟齬やシステム的な問題があっても発見しにくいよ

うに思うのですが、どのように工夫し、気をつければよいとお考えですか。

A: 世界各地の文明・文化・人々の考え方の多様性を理解する事です。しかし、当然理解には限界があります。他人の思考・考え方を真似しても長くは続きません。プロジェクトリーダーとして最も心がけることは、自らの価値観の表明と未来への知見であると考えます。絶えず自ら信じる価値観を部下に表明することが大事です。スタッフの役割分担を明確にするのが、プロジェクトリーダーの仕事です。チームメンバーに分野を限定し専念させることで、大きなプロジェクトを動かす事ができます。分野間の隙間は全てチームリーダ-が埋めます。役割が鮮明、明確ではないと深度が鈍くなります。一つ一つ深堀された仕事がプロジェクトの成功を生みます。いずれの時代も人間力がリーダーの資質として、要求されるのは変わりありません。講義で紹介した、松葉一清さんのモダニズムの限界を早くから指摘した見識、北海道大学の近隣幼稚園に対する包容力、大木の根株への愛情、ケネス・クラークのロマン主義への知見にはリーダーとしての力量を感じます。皆さんが、プロジェクトリーダーとして活躍できなければ日本の未来はありません。

 

Q: 大学で学んでおいた方が良かったと思ったことは何でしょうか。

A : 基本的には時間をたっぷり使った座学と体験です。社会人はどうしても自由な時間が少なくなります。座

学は読書です。本からは古代人から現代人の知恵を居ながらにして学ぶことができます。体験は旅です。

旅は本からでは味わうことのできない日本や世界各地の文化、習慣、食事の楽しさを教えてくれます。自分の好きな職業に就かなければなりません。好きな職業に就けば一生楽しめます。旅と読書で世界観を拡げることだと思います。学生時代に自分が好きなこと、大切にしたいことが見つかればOKです。物事の本質はなかなか見えにくいものです。プロジェクトリーダーは自分の姿勢・信念を大切にしなければなりません。プロジェクトの成否はプロジェクトリーダーの責任です。成功するか失敗するかは、時の運です。役割、業務への理解だけで働くのではなく、自らの夢や課題を探求し明確にしてください。自らの価値観を大事にして、21世紀の新しい技術者像を構築してください。

 

コロナ禍が過ぎ去った後…:

コロナ禍の後と日常生活を、如何に取り戻すか新聞やTVで騒がれている。ある新聞記事が目に留まった。歴史的な大きな出来事・事件は、時代の進化をより加速させる働きがある。今回のコロナも在宅勤務、ネットショッピング、ネットワーク授業とさまざまな新しい日常を誕生させた。その進化は不安でもあり、楽しみでもある。After Corona、SDGsがつくる世界は、先人先輩達が成果を上げた経験や、ルールが通用しない世界になるに違いない。お茶の水女子大学の卒業生は数年後には、必ずプロジェクトリーダーとしての役割を期待されている。若者の皆さんの未来を見据える“知見と価値観”がプロジェクトを動かし、リーダーシップを発揮する時代が必ず来ると伝えて講義を終えた。夕方のお茶の水女子大学の構内は少し涼しい風が渡っていた。

 

最後に…

オンライン授業は、なかなかコミュニケーションが取りにくい。しかし、受講生一人との会話は教壇からの会話より身近に感じられることに気付いた。目の前に本人がいるかのごとく声が伝わってくる。オンライン授業は1対1の会話に近い感覚のコミュニケーションだ。

 

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