「設計力®」とはやりきる力 【毎水曜掲載】

㈱ワールドテック 寺倉修

第二十六回 設計者としての成長

―今の実力を超えた設計に挑戦すべし

 

自動車部品メーカーで設計に携わっていた頃を振り返り、そのスタンスを一言で表現せよと言われれば、「手抜きをしないこと(手前味噌で恐縮―)」と答えます。だが、これは素晴らしい成果を出したということではありません。むしろその逆で、設計は失敗の繰り返しでした。やっとのことで量産(生産開始)にこぎつけた部品で半端ではない赤字を出したこともあります。設計の経験はまさに悪戦苦闘、修羅場の連続でした。だが、逃げることなく取り組むことで設計について多くのことを悟りました。それがこの連載「設計力」です。

ここで、設計の修羅場の一例を紹介します。第16回「設計の役割」でも取り上げた、雨が降るとワイパーが自動で動くシステムに使われるセンサーを設計した時の経験です。何とか試作品を造り、やっとのことで評価の段階へこぎつけました。自然の雨の中でワイパーがドライバーのフィーリング(感性)に合うように動くかどうかが重要な評価項目でした。

しかし、思いもよらない大きな課題がありました。待てど暮らせど雨が降らなかったのです。評価に値するバリエーションに富んだ雨、しとしと、バラバラ、ジャージャー、ドドーという雨です。設計課題も山積みで、午前様が続いていたある日、さあ明日に備えようと横になった時に雨音がした。気が付くとクルマに乗り、東名高速道路を豊橋方面に向かって雨を追いかけ、走っていた。走行距離は往復で100kmになっていました。

土曜日は開発の遅れを挽回する貴重な日でした。朝、職場へ向かおうとクルマのハンドルを握るやいなや、カーラジオが中央高速道路方面で雨が降っているとささやいた。と同時に、私はハンドルを切った。雨を追い掛けて、気が付けば松本の手前の塩尻インターにいた。そしてインターでUターンして職場に向かいました。400kmを迂回した通勤です。それでも昼過ぎには職場に到着し、仕事に着手したのです。

設計がトラブルなくスムーズに完了できるに越したことはありません。しかし、設計者の成長にとっては、必ずしも歓迎すべきことではないのです。何の問題もなく設計できるということは、設計者の実力内で対応可能な業務と言えます。これを繰り返すだけでは、設計者の実力は「10年1日のごとし」。成長が止まってしまいます。

今の実力よりも少しでも高い水準の設計に取り組んで欲しい。失敗して修羅場に陥るかもしれない。だが、逃げることなく取り組み続けることが、設計者として一段上の成長をもたらします。これを続けると、自分自身で「設計とはこうあるべき」という思いが沸き、それが信念、ひいては悟りをもたらします。設計者として逃げることのない挑戦を願います。

ー以上ー

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