「設計力®」とはやりきる力 【毎水曜掲載】

㈱ワールドテック 寺倉修

第三十七回 常識を覆し、新たな製品を生み出す

-「自社で初めて」は「感動する心」から

 

よく耳にする「今必要なのはイノベーション」。中小企業の経営者が翻訳すると、「新しい部品や製品を手掛ける」でしょうか。経験したことがない加工や組み立てでも、取り組む中小企業にとって、さまにイノベーションです。

イノベーションについて、以前出会ったものすごく腑に落ちる表現。「たとえ変人呼ばわりされようが、失敗して、失敗して非難されようが、何が何でもやり続ける人がイノベーションを起こしてきた」。自社で初めての製品を「ものにする」には、人、金、情報などが足らなくても、何が何でも「やり続ける」ことができねばならない、ということです。

やり続ける原動力は何か。それは、「自社で初めて」と聞けば、「目が輝き」、「感動する心が湧く」ことだと、私は強く思います。

事実、私はそうした事例を知っています。かつて先輩が、誰もできないと思ったダントツの(圧倒的な)短期間で新製品を開発したのです。

もう40年ほど前のことです。その先輩は、急なブレーキ時の横滑りを防止する装置(ABS) の開発に携わりました。きっかけは、自動車メーカーからの開発の打診。実は、当時在籍していた会社は、ブレーキ分野を手掛けていなかった。けれども、先輩はちょうど新分野開拓を模索していたタイミングで、開発をスタートさせたのです。

最大の課題は、開発期間が極めて短かったことです。搭載予定の車両のラインオフまで、わずか1年半。にもかかわらず、開発環境は全く整っていない。技術も知見もノウハウもない。評価設備もない、人もおらず、開発要員は数人のみ。まさに「無いない尽くし」でした。ひるむことなく、さまざまな手を講じました。それは「常識を覆す」取り組みの連続でした。一つ紹介します。

開発の場所は、古い建屋で空いている部屋を何とか確保。問題は評価設備でした。最大のネックは設備の製作期間。簡単なものでも半年ぐらいかかるのは珍しくなく、1年半しかない切迫した状況では、半年は論外でした。

先輩たちは知恵絞り、評価設備の手配を省略できる方法を考案。実車を評価設備と位置付けたのです。それまでは、評価設備を使って評価する、部品メーカーの常識でした。実車を使った評価の効果はてきめん。短期間で手に入っただけでなく、ユーザーの立場で評価し、クルマとしてのニーズも把握できる、などなど。開発を進める有益な方法となったのです。以後、実車で評価することが、その職場の標準作業となっています。

無いない尽くしの職場環境でも、輝く目と感動する心があれば、イノベーションも可能となる。このようなマインドを待ちたいものです。

ー以上ー

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