㈱ワールドテック 寺倉修
第十三回 在宅勤務の罠
-「これぐらいで・・・」は品質不具合へまっしぐら
昨年になるが、デンソーが自動車部品のリコールで2020年3月期決算は大幅減益。当時こう思った。「品質不具合はなくならない」、「在宅勤務で、品質不具合は減るのか、増えるのか?」と。
言うまでもなく、在宅勤務を進めて品質不具合が増えるのでは本末転倒。第2回「なぜ不具合は起きる」で取り上げましたが、ものづくりは自然が相手です。「在宅だからこれぐらいでよいだろう」というのでは市場クレームへ直行。怖いのは、気づかないうちに「これでよいだろう」という罠(わな)に陥ることです。どのような場合にそうなるのでしょうか。
今迄生産していたものを少し変えた「類似部品」の設計は、職場にある確立した設計基準を使って完結します。在宅勤務でも対応できるでしょう。
だが、新たな技術や構造を持ついわゆる「次期型・次世代部品」は、既存の設計基準だけでは対応できず、技術や知見の掘り起こしが必要です。このような場合、在宅勤務でなくとも「ここまでやったんだから」と思いがちです。ましてや、在宅勤務では「これぐらいでよいだろう」の罠に陥っても不思議はありません。
第10回「管理者は設計手順を説明できますか」で取り上げた「設計プロセス」に沿って、「これぐらいでよいだろう」「やったつもり」の罠に陥りやすい主な取り組みをピックアップしました。①お客様の真のニーズを把握したつもり②設計目標値を設定したつもり③技術課題をめど付けしたつもり④試作部品を評価したつもり⑤デザインレビュー(DR)や品質決裁会議を行なったつもり⑥仕入れ先監査を実施したつもり
⑤のDRを取り上げます。DRの基本は、部品を自分の手で持って「観る(みる)」ことです。そうすれば、ものは設計者に訴え掛け、気づきを与えてくれます。ものを触るとその感触が手に残りますが、これが設計者にとってとても大切です。ものを観て触れなければ机上の空論に陥りかねません。画面(現在のパソコンの解像度)を通して見たつもりになっては、気づきを得ることは難しいでしょう。
加えて、品質決裁会議は真剣勝負の場です。報告者(担当者)はプライドを持って臨み、決裁者(管理者)はそれにふさわしい心構えで受けねばなりません。これが画面を通して可能でしょうか。決裁会議を実施したつもりに陥ってはならならないのです。
このように「つもり」に陥りやすい取り組みには「人」と「もの」、そして「現場」が関わります。在宅勤務はこの3つの関わりにいかに対処するかが大きな課題です。
大規模なリコールも、ねじ1本の「これぐらいでよいだろう」という罠から起こります。在宅勤務を進める際には、「ねじ1本の重み」を従来の職場勤務以上にかみしめねばならないのです。
ー以上ー
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