「設計力®」とはやりきる力 【毎水曜掲載】

㈱ワールドテック 寺倉修

第十九回 モチベーションは高く

―市場クレーム時に分かる「お客様第一主義」

 

今年の4月から、希望する従業員に対し,70歳まで就業機会を確保することが企業の努力義務となります。一方、就業する方は年齢を言い訳にせず、モチベーションは高く持ちたいものです。今回はモチベーションについて、筆者の経験を紹介します。

自動車部品メーカーで設計を担当していた、30歳になったばかりの頃のことです。当時、米国のマスキー法と呼ばれた法律から始まった厳しい排出ガス規制が世界を席巻し、日本でも排出ガスの規制がどんどん厳しく求められるようになっていました。排出ガス浄化システムの開発と導入が進み、筆者もそのシステムに使われる部品を設計していました。

ある年の初夏、欧州の市場から壊れた部品が返却されてきたのです。壊れ方から偶発的に起こる故障ではなく、ある一定の確率で起こり得ると判断できました。市場でどんどん割れるという不具合だったのです。

当時の職場では、市場で1台でも不具合が見つかれば、原因究明から対策までを最優先で処理することが当たり前になっていました。

しかも、この不具合は排出ガス規制に関わるクレームで、急を要することが分かっていました。私たち設計者にかかるプレッシャーは相当なものでした。

対策を検討している間も、市場でお客様に迷惑をかけ、工場は壊れる危険性のあるものを生産し、さらに恐ろしいことには、その製品を市場へ投入し続けることになるのです。土曜も日曜も関係がなくなったのは言うまでもありません。

市場でのこうしたトラブルは不思議なもので、いよいよ明日から長期休暇だ、と思っている時に一報が入ってきたものです。こうなった場合、連休は全てなくなりかねないのですが、それでも、当時は関係者全員が言われなくても連休返上で対策に取り組みました。これはその職場の風土であり文化であったのだと思います。

不具合の部品に戻ります。7月に入ると突然、対策を一緒に行ってきた欧州の自動車メーカーの担当者と連絡が取れなくなりました。なぜか、その担当者が1カ月の夏季休暇に入ったからです。不具合が時々刻々と市場で起きている可能性がある状況において、長期の夏期休暇をとることなど全く信じられませんでした。

1カ月後、夏期休暇から戻ってきた担当者いわく、「この部品の不具合発生確率の推定値はF%以下。これは想定クレーム率内だから、急ぐ必要はない」。この言葉を聞いて唖然(あぜん)としたことを今でもはっきりと覚えています。

このことは、ものづくりの風土や文化の違いで、どちらが良いかは一概に言えないでしょう。だけれどもこの例からは、当時の日本企業の「モチベーションの高さ」や「お客様第一主義」をご理解してもらえるのではないでしょうか。

ー以上ー

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